令和5年4月6日に陸上自衛隊のヘリコプターが宮古島沖で消息を絶った事故について推測した。もし飛行中に異常が発生すればエマジェンシーコールを発するとか、搭載しているトランスポンダで7700などのコールを発する筈だ。エンジントラブルがあったとしても、オートローテーションによって動力を使わずとも軟着陸は可能である。ヘリコプターの胴体は基本的には水平にぶら下がっているが、テールロータを利用したり、尾翼に風を当てることでローター回転面とは無関係に胴体の傾きを変えている。高度を知るために使える比較物が海面上では少ないから、水平に飛行していても、胴体は傾いて飛んでいることは常に生じるし、その逆も生じる。現時点での推測としては、おそらく故障や破壊活動などではなく、水平に飛行しているつもりで海面に激突した可能性は小さくはないだろう。
令和5年4月6日に陸上自衛隊のヘリコプターが宮古島沖で消息を絶った事故については、まだ詳しいことが分かっていないが、その原因について推測してみたい。
10人搭乗の陸自ヘリ、宮古島沖で消息不明 機体の一部など発見 2023年4月7日 BBCニュースJAPAN
https://www.bbc.com/japanese/65210202
現在(令和5年4月12日)のところ明らかになっているのは、
〇機体の一部や搭載物が破片となって油と共に海面に浮いていたこと。
〇エマジェンシーコールなどは発せられていないこと。
〇昼間の事故で、飛行に支障となるような天候ではなかったこと。
である。また付近の住民から低空飛行をしていたとの目撃情報があるようだ。ただ目撃者の記憶の発言を私が受けた伝聞であり信憑性に欠けるし、目撃者が他の航空機と間違えた可能性も否定できない。 情報→
もし飛行中に異常が発生すればエマジェンシーコールを発するとか、搭載しているトランスポンダ(レーダー応答機)で7700などのコール(スコーク7700のこと。緊急事態を知らせる符合)を発する筈であり、更に、通常の飛行中にエンジントラブルがあったとしても、プロペラの様な回転翼で風を受けるオートローテーションによってグライダーのように動力を使わずとも軟着陸(軟着水)することは可能である。
つまり(可能性として。)、エマジェンシーコールを発する間も、オートローテーション状態に入れる間もなく機体が破壊されたということだ。例えば他機との空中衝突や地物への衝突、そして爆発物による破壊だろう。
しかし、本件の事故が、空中衝突であるなら、相手が必要であるから、もう1機行方不明機が発生する可能性が高いだろうし、海面上で破片が発見されているから、地上の地物への衝突の可能性よりも直接海面に衝突した可能性の方が高いだろう。また破片の映像を見る限りにおいては爆発で生じたような破孔や外部にひしゃげたような変型もなさそうである。
今後の、詳細な調査が必要なところではあるが、以上の状況だけから判断するなら有力なのは空間識失調(パーティゴ:ポジショナル・バーテックスの略)である。これは飛行姿勢とパイロットの平衡感覚に食い違いが生じて認識することなく地面などに衝突するもので、三沢基地のF-35Aの事故や小松のF-15Jの事故の原因が空間識失調とされている。 姿勢→
ただし、今回の事故発生時刻1556はまだ日中で曇天であることから比較的に空間識失調を起こし難いのではないかという疑念が生じる。
なお海上と陸地で異なるので事故発生海域と同じとは限らないが、レーダーロスト時の宮古島の気象条件は次のとおりである。
気圧(hPa) 現地1004.7 海上1010.2 時刻16:00 気温(℃)20.3 降水量(mm)0.0 風向・風速(m/s)南南西 1.6 日照時間(h)0.5 視程(km)20 海上→
問題は現場が海であることだ。平らな海では高度を見誤ることがあり得ることだ。海面上でホバリング(航空機が空中の一点に静止した飛行状態)するのなら機体が破壊されるほどの速度で降下し海面に衝突することはないだろう。実際にソナーを海中にディッピング(浸漬)したり潜入や救助活動等をするためロープを用いてリぺリングをする場合などに海面上でホバリングすることは普通にあることだ。
しかし、そのホバリングの高度まで、垂直に降下することが、やって不可能ではないヘリコプターではあっても、高い高度から地上まで、ビルのエレベーターのように垂直に連続して降下することはなく、通常は着地近くまで前進しながら高度を下げるのが普通である。なぜかと言うと一つは、万が一動力系統に異常が生じた場合、先に言及したようにオートローテーションの状態にして減速しながら降下するのであるが、オートローテーションの状態に入るにはローター(回転翼)回転面の平行方向よりも下向きから十分な風速の風を受ける必要があるからである。
下側からの風を受けるには前進速度を保ちつつローター回転面を後傾させて、回転面下側から上向きの風を受けるか、あるいは高いところから自ら自由落下して落下速度を得て下側からの上向き風を受ける必要がある。従って風を受けるためには水平速度か、高度が必要である。低空でのホバリング状態からでは、オートローテーション状態に入る前に地上に激突してしまうので注意を要する。
もう一つの斜めに降下する理由は、ローターが発生する、地上に吹き付ける風(ダウンウォッシュ)が地面に当たって跳ね返り、ローター回転面の外側を風が上向きに通過して再びローター回転面に引き込まれるためドーナツ型の気流が生じるのである。つまりヘリコプターを上から地上に叩きつけるような風が生じるわけだ。
その下降気流からヘリコプターが逃れるには、水平方向へ移動するしかない。ホバリングの状態に入れるのは、ヘリコプターが地上に落下しても最小限の破壊で済む高度になってからである。
ホバリングするのではなく海面上を低空で移動しながら飛行をするなら、水平飛行から降下して目的の高度で水平飛行に移ることになる。しかし、低空飛行の場合の速度は万が一の故障を考えて慣性力で高度を取ることが出来る速度で飛行する。エンジンが故障しても飛行速度分の慣性を用いて弾道飛行をして一度高度に復帰すればオートローテーションに入れ易いからである。
もちろん低空飛行をしたのは陸上自衛隊にとって敵の上陸可能地点の地形を詳細に視察する必要があるからに他ならない。長い海岸線を視察するには高速で飛行する必要があるし、ホバリングには以上のような危険性もあり高速で飛行せざるを得ないのである。 上陸→
このような高速度で飛行すれば、万が一海面に接触した場合、大きな事故になりかねない。通常は無いことだが、平らな海面というのは、波などの見え方では高度を誤り易いものだ。パイロットは海面と高度計を同時に見ることは困難であり、それらへの視線を変えている間にも高度が変化し得るのである。仮にヘッドアップディスプレイやヘッドマウントディスプレイがあったとしても、ハーフミラーに投影される数値と同時に海面を注視するのは僅かに視線方向の差が生じる。明瞭に文字を判読可能な中心窩の視野は5度程度であり、仮にハーフミラーまでの距離が50cmとすれば4.5cmのズレとなる。さらに数字というのは直観的に捉え難いもので、頭の中でアナログ量に変換する必要を生じる。一瞬視線を外したり、数字の変換をすることは高度変化に繋がることがあるし、桁を読み違えれば致命的だ。
さらにヘリコプターの特性として、機体の姿勢と飛行の進行方向が一致し難いという問題がある。
固定翼機では、主翼が胴体に固定されているから迎え角や偏流角による差はあるものの、機体の姿勢と飛行の進行方向は比較的一致している。もちろんポストストール(失速した状態で行う機動)のような特殊な飛行は別だ。
ヘリコプターにおいて、回転するローターが固定翼機の主翼の役割りを果たしているのであるが、ローター回転面と機体の進行方向との角度は一定であり、機体の姿勢とは一致し難いのである。
通常、ヘリコプターの胴体上部にはマストという部位があり、この部位がローターの中心部のハブ(ローターヘッドとも言う。)という部品と連結する部分がある。そのマスト内部をシャフトが通っていてローターに回転力を与えるわけである。
今説明したとおり、複数のローターブレードの中央部には、それらを纏めるハブという部品がある。このハブを中心に複数のブレードがハブに取り付けられ、ハブを中心に回転するローターが形成されている。
このローター中央のハブとエンジンメカニズム側からのシャフトはスプラインジョイントやベアリングなどにより固定的に結合され回転力を伝達している。したがって胴体とハブの位置や角度が、後に述べるローター回転面のように変わることはない。
ところで、ここで説明のために横路へ少し逸れるが、ヘリコプターがどうしてホバリングや上下動だけでなく、前後左右に移動出来るのかと言うと、ダウンウォッシュの方向をローター回転面が傾くことで変えて水平方向へのベクトル分力成分を生み出しているからだ。
一般向けの書籍などには、ヘリコプターはローター回転面を「傾ける」ことで水平方向へ移動できると説明しているものがあるが、それは間違いである。
あくまでもローター回転面が自ら「傾く」のであって、「傾ける」のではない。パイロットが操縦桿の様なサイクリック・スティックを操作して、マスト内にあるスワッシュプレートを傾けることによって、カム接遇とリンク機構により、ハブに連結されている各ブレードのピッチを回転に同調して周期的に変更し、ローターが一回転する間に、回転翼のブレードのピッチの連続した変化によって風力でブレード付け根から先を上下させるのである。
それによってローター回転面が傾いてヘリコプターを前後左右に移動させることができる。決してマストを貫くシャフトや、その上にあるハブを「傾け」ることはないのである。
そのようにハブやシャフトを「傾け」たりすると、ローターにジャイロ効果であるプリセッションが生じて、その「傾け」た回転方向90度先の「傾き」を生じてヘリコプター自体がひっくり返ってしまうから、「傾け」ることは出来ないのだ。決してサイクリック・スティックレバーの操作が、直接にローター回転面を傾けているわけではない。それではヘリコプターは安定して移動することは不可能である。
以上のようにハブと胴体との位置関係は変わらないのである。
これによってローター回転面は「傾く」が、胴体と同じ角度で回転しているハブと、進行方向に合わせて傾いて回転しているブレードの間が、ぶらぶらでなければローター回転面はハブに拘束されて傾くことが出来ない。ぶらぶらであることによりローター回転面はハブとは独立して、慣性力によって空間座標中において角度を保つことができる。 独立→
そのために自由に角度が変わることが出来るように各ブレードの付け根には蝶番のようなヒンジという部品を介して繋がっており、ヒンジのピンを中心にピッチ方向に加えて、自由に前後上下に動くようになっているのである。あるいはリジットローターと呼ばれる、ヒンジを持たない固定ローターも存在し、付け根部分が捻じれて自由に動くようになっているものもある。先に述べたように、この部分にはスワッシュプレートなどのビッチ変更機構がある。自由に各ブレードが動くことが出来るので、ピッチを変更したり、左右の揚力差の調整や各ローターの傾きによって生じるコーニング角(ブレード間の万歳の角度)による半径の差の分の周速度の変化を吸収できるわけである。(フィギアスケートのスピンなどで両腕を延ばしたり縮めたりすると回転速度が変わるのと同じ原理。ブレードは半径が位置によってコーニング角が変化するので周速度の増減を繰り返している。)
もちろんローターブレードが地面や自らの機体を引っ掛けると危ないから制限ストッパーがあるので弓なりになるだけでダラっと地面に垂れたりはしないのだが、回転による遠心力があるからほぼ遠心方向に維持される。実はヘリコプターの胴体は、この遠心力によって相互に反対方向に対偶するブレード間の張力の合力で、マストを介して吊り下げられているだけなのだ。
実を言うとヘリコプターに胴体は絶対的には必要ない。ローターだけのヘリコプターというのを作ることも可能である。中央のマスト内のシャフトの代わりに各ローターブレードに搭載されたエンジンによって回転力を与え、全体として回転するヘリコプターも試作されたようだ。私の記憶にはあるのだが画像が見当たらない。確かS-55のキャビンが巨大なブレード翼端について円を描いて回るような感じのものだ。ちなみにドローンであるが、こんなものも実現している。
1枚の回転翼だけで空を舞う「モノコプター」が登場
https://nazology.net/archives/99822
要するに竹とんぼのイメージである。乗っている人間は遠心力が強いと耐えられないので、かなり巨大でゆっくり回るものだったようだ。
ヘリコプターの胴体は、このローター回転面に、完全にぶらぶらとぶら下がっているだけなのである。ローター回転面の傾きを調整することは可能ではあるが、先に説明したとおりブレードのピッチ調整による揚力で傾きを変えるのであり、あくまでも、マストやシャフトがローター回転面に力を加えてはおらず、吊り下がっているだけだ。
ヘリコプターの胴体は基本的には水平にぶら下がっているが、シングルロータ―ヘリコプターのテールに設けられたテールロータを利用したり、尾翼に風を当てることでローター回転面とは無関係に胴体の傾きを変えている。
固定翼機の場合は主翼と胴体の関係は一体として(進行方向の話ではない。)結合されて居るから、機体の飛行状態を把握し易い。しかしヘリコプターの場合、飛んで行く方向と胴体の軸線は一緒とは限らないわけである。言ってみればマストとの結合に限ってはロープを介してぶら下がる気球のバスケット(ゴンドラ)のようなものだ。
先ほどパーティゴの可能性を述べた。パーティゴは人間の三半規管の情報と視覚情報に食い違いが生じて起きる。そして三半規管の中では回転と傾きが内部のリンパ液と耳石器官や有毛細胞に相互作用してジャイロ効果による90度ズレのプリセッションが生じる。これらが複雑に絡んで生じるのである。
低空の海面上を高速で飛行しているときに基本的には横風などの要因を除き、胴体の軸線は機体の進行方向と概ね一致している筈なのだが、実際には風の影響や減加速によってぶら下がっている胴体は揺れて傾くことになる。そうするとヘリコプターの姿勢と飛行方向に食い違いが生じてくるわけだ。
人間の平衡感覚は、航空機のパイロットであれば機器や装置の助けを借りることで十分な平衡感覚を保ち得るとは言え、鳥類の平衡感覚とは異なり、そもそも飛行に適したものではない。まして高度を知るために使える比較物が海面上では少ないから、水平に飛行していても、胴体は傾いて飛んでいることは常に生じるし、その逆も生じる。それが万が一、把握認識のミスによって海面と交差すれば衝突が生じることになる。人間がそれを認識することは容易な事、ではないのである。
なお、機体の傾きは加速度感覚にも影響する。フライトシミュレーターなどはキャビンを傾けることで加速度感覚を作り出している。
まだ捜索活動中で得られた情報は限られるのだが、現時点での推測としては、おそらく故障や破壊活動などではなく、水平に飛行しているつもりで海面に激突した可能性は小さくはないだろう。現時点では仮説ではあるが搭乗員自身何が起きたか分からぬまま大きな衝撃を受けたのだと思う。なぜなら人間の認知能力と比べ非常に短時間の内に起きることだからだ。進んでいる方向に、そこには無い筈の海面が眼前に迫って来たのかもしれない。否や認識する時間も無かったかもしれない。
以上述べた通り、
〇 人間はパーディゴに陥りやすい。
〇 ヘリコプターはホバリングしないかぎり低高度を高速で飛行する。
〇 ヘリコプターの機体の姿勢は飛行方向に依存しない。
〇 海面上の高度と高度変化は瞬間的には把握が難しい
、と言った以上の点から海面に激突する可能性は常に高いと考えられる。もちろん今後の捜索や事故調査で新たなことがわかるかもしれないが、現在発見された漂流物などから意図的な破壊活動があったという兆候は見られない。おそらく事故が原因の可能性が高いと考えれる。もちろんこれが意図的な自殺行動である場合は別である。
平成30年(2018年)2月5日のAH-64Dの事故のように部品の品質不良によりブレードが吹っ飛んだ事例もあり、同様の原因である可能性も否定はできない。この時も事故を知らせる交信はなかった。
2019.09.30 WING 陸幕、AH-64D墜落事故の調査結果を発表
https://www.jwing.net/news/17375
佐賀で陸自ヘリ墜落 写真特集(墜落連続写真)
https://www.jiji.com/jc/d4?p=sag205&d=d4_ftee
なお13日の報道ではコンタクトロス時の高度は150mだったそうだ。レーダーによって三角関数的な計測による数値であるか高度計データのトランスポンダの応答による数値かで違うし、後者であれば高度計の気圧補正で変わるので注意は必要だ。通常、航空法では150m以上、海面及び海面上の物体から離れて飛行することとなっている。垂直に時速200kmとしても海面まで3秒はかかる。高度低下に気が付かなかったのだろうか。謎である。
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