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ICBM迎撃にSM3の限界と空中発射化の提言

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〇成功の意義
 今回の実験の成功は、意味のないものとは言えない。ただしSM3ブロック2Aを使用できる場合は、発射するイージス艦の近傍に命中が予測される場合だけである。
 しかし、そもそもICBMは固定目標を攻撃するのが本来の目的である。飛来してくるICBMの命中までには30分以上掛かる。外洋を航行中の艦隊の場合なら、飛来警報さえあれば、戦闘艦は通常30ノット以上の速力で航行できるから、30kmも避難できることになる。したがって、あまり艦隊攻撃には向いていない。まして大洋中を行動中の艦隊の存在を、数千キロも離れた場所で知ることは極めて難しい。人工衛星は90分に1回しか特定地点を偵察できず、仮に即時に画像化できて通信衛星を通じて偵察できても、あまり意味のある照準にはならないだろう。
 艦隊泊地や重要港湾に停泊中に、艦隊をICBMの攻撃から守ることはできるかもしれないが、内陸の都市や基地を守ることは、イージス艦の役割ではなく、イージス・アショアの役目となるだろう。
 まして米本土(の沿岸)を守るために、世界に展開しているイージス艦を集めて、狭い要撃範囲をカバーするのも現実的とは思えない。
 今回の実験の本当の成功の意味は、SM3によりICBMを迎撃できたことよりも、衛星やイージス艦を用いてICBMを追跡できたことだろうと思われる。


〇解決すべき課題
 高速で落下してくるICBMを迎撃するためには、迎撃ミサイルの速度の方も高くする必要があるし、同時にそれは到達できる高度を上げる効果もある。迎撃ミサイルの速度が大きければ、それだけ広い範囲を防護できるわけである。
 ロケットの最高到達高度や加速終端速度は、概ねロケットの大きさによって決まる。それには燃料の種類によって異なる比推力と、ロケット全体に占める燃料の重量比、すなわち構造効率の二つの要素によって決まるものである。
 この比推力というのは、あまり馴染みのない方もいらっしゃるとは思うが、燃費のような意味を持つ数値だ。燃費が良ければ長い時間、ロケットエンジンを作動させることができ、時間さえ掛ければ、より大きく加速できることになる。
 定義としては、1ニュートンの推力を何秒間維持できるかという秒の単位で表される数値である。
 実は、ロケットの噴射ガスの噴出速度と比例している。手に粘土のようなものを急激に握ると拳の左右から、握ったものが飛び出す。ロケットはガスを噴出した反動で推進するのだが、握りこぶしの左右から飛び出した方の一方がロケットで、もう一方が噴射ガスである。つまり噴射ガスを噴出するのは、握りつぶして細長くすることと同じなのである。その引き延ばされた全体の重心がどこか真ん中付近にある。この重心位置は動かない。引き延ばされるときの飛び出す速さが速ければ、ロケットも大きく加速される理屈である。
 高い比推力の推進剤は、噴射ガスの噴出速度が速いのだ。推進剤とは化学ロケットにおいてのみ、燃料や、燃料と反応する酸化剤と同義語となる。燃えるというエネルギーの観点からは燃料であるし、噴射ガスとして噴出するという意味では推進剤だからだ。
 化学ロケットではない場合、例えば小惑星探査機の「はやぶさ」に使用したイオンロケットでは、これが別になる。燃料と言えるかどうかわからないが、燃料に当たるのが電気で、推進剤はキセノンガスだった。
 繰り返すが、比推力が大きければ、同じ燃料の量においてロケットを大きく加速することができる。
 しかし、比推力は、使われる燃料(すなわちここでは化学ロケットなので、=推進剤)の種類が限られるため選択の幅が限られる。
 そして燃料の量が多い程、噴射ガスを長い時間噴射できるから、最終到達速度は大きくなる。先ほど、握りつぶしの例を示したが、軽い方がより遠くに飛ぶ。つまり燃料に比べて、加速されるロケット本体が軽ければ軽いほど、噴出ガスに比べて遠くに移動、すなわち加速されるわけだ。このロケット本体と燃料の重量比が、先ほど述べた構造効率である。
 構造効率も搭載すべきペイロード(ミサイルであれば弾頭重量)の軽量化に限界があるから、同様に大きくするには限度があり、燃料が詰まっているロケットブースターの大型化を図るしかなくなってくる。したがってほぼ、最高到達高度などはミサイルの大きさに比例することになる。
 現在、米本土に飛来するICBMを迎撃するミサイル・システムとしてはGBIがあるが、これはミニットマンICBMを改造したものである。ICBMを迎撃するためには、本来はICBMクラスの大きさのミサイルが必要なのだ。
 SM3ブロック2Aは、垂直式発射装置Mk41MLSに装填し、かつこれから発射することを前提としているから、寸法拡大には限界がある。
 GBIなみの迎撃ミサイルを搭載しようとすれば、新たな発射装置が必要となるが、そもそも艦艇の大きさには限界がある。
 小型の迎撃ミサイルでICBMの迎撃を行うこと自体に、そもそも無理がある。キネティック弾頭は、直撃による運動エネルギーを用いることで炸薬を使用しないが、それでも微調整用のスラスターや電池などの重量を減らすのは難しい。
 燃料についても、実用となる燃料の種類は限定され、一般に高い最終到達速度を得られる高比推力の燃料等の推進剤は、推力の方が小さく、重い重量のロケットを打ち上げることができるような大推力の推進剤は、比推力が小さい傾向がある。
 これらの課題を打破するような技術的ブレークスルーは、近い将来には困難だと思われる。
 一つの可能性として提案するのは、小型のミサイルの速度向上には限界があるから、発射場所を素早く移動することを挙げる。
 艦艇に搭載するSMミサイルやイージス・システムは、それ自体が運用状態を維持したまま移動できることが、地上発射のPAC3やTHAADに対して大きな利点である。しかし、艦艇の速力はせいぜい30ノット程度に過ぎない。
 もし、航空機に搭載し空中発射できるなら、これを数百ノットにすることができる。SM3ブロック2Aミサイルとは別物であるが、SMシリーズのミサイルには、スタンダードARMのように航空機に搭載したものもある。航空機に搭載すれば、航空機自体が優れた大比推力かつ大推力のブースターであり、ミサイル自身を2段式としてブースターを用いる必要もなくなる。
 常時、搭載機を空中待機させるのは大変であるけれども、米本土に30分以上の時間をかけて飛来するICBMに対してなら、それなりに対応できるものだろう。
 テニスプレーヤーがコートを縦横無尽にフットワークを活かして走り回りボールを撃ち返すように、米大陸というコートに飛来するICBMを迎撃できるだろう。
 航空機にイージス・システムを搭載することは難しいだろうが、それらは地上配置や艦艇への搭載でもある程度は対応できる。
 三菱重工などは航空機搭載兵器の知見も多いだろう。SM3ブロック2Aミサイルの空中発射化を検討してみたら米国も注目するのではないだろうか。

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