(画像はイメージ)
「RavnX(ラバーン・エックス)」という衛星空中打ち上げ無人機はなかなか興味深い。映像を見ただけでは分からないところが多く、打ち上げブースターは冷やす必要のない赤煙硝酸などの常温酸化剤を使用するのだろうか。V型尾翼なのは搭載作業の邪魔にならないように避けたのかもしれない。
空中打ち上げの例は多くても、今まで無人の母機から発射するものの他の例を私は聞かない。
静止軌道や極軌道衛星など、すべての軌道に適した発射場というのはあり得ない。空中打ち上げによって、これら発射地点の問題を一気に解決することが可能となる。
空中打ち上げなら、打ち上げの準備作業を格納庫などの設備内で行うことも可能で秘匿性や対候性に富む。
ドローンによる偵察も流行りであるが、衛星に比べ、ドローンなどの偵察は低い高度から広い範囲を短時間で偵察するのが難しい。こちらが偵察していることを敵に気づかれ易い。このように偵察衛星とドローンなどによる偵察には一長一短がある。
偵察目的なら、軌道を察知され易い衛星軌道より弾道軌道の方が好ましい場合もあるかもしれない
ドローンからの打ち上げについては、飛行技術も向上し、高い確率で着陸が成功するようになった。偵察衛星は、戦時には母機が撃墜されることを覚悟で飛行して打ち上げる必要性も出てくる可能性があり、そうでもしなければ偵察タイミングや破壊された衛星の代替衛星投入の目的が達成できない場合も出てこよう。 そもそもドローンが普及したのも、人的危険の回避が理由の一つである。従って母機もドローンである方が望ましい。
空中打ち上げに取り組んでいる企業が出てきているので、今後、様々な用途に適したものが出てくるかもしれない。
〇米国ベンチャーの無人機からの衛星打ち上げ
興味深い情報を見つけたので紹介したい。
元JAXA職員の斉田興哉氏のサイト「宇宙ビジネスオフィシャルブログ」にあったものである。
https://ameblo.jp/tsaichan/entry-12644387741.html
当サイトが映像で紹介している。
私自身が、事の裏の真偽を確認したわけではないが、当サイトの情報を信じるなら次のような概要である。以下、当サイトから引用しつつ紹介する。
米アラバマ州拠点のベンチャー「Aevum(イーバム)」が無人機を使って低軌道へ衛星を投入するという内容である。
米空軍と共同で研究開発をしたもので、無人機の名称は「RavnX(ラバーン・エックス)」というらしく、3時間で低軌道へ投入することができるという。おそらく微調整も含めての値だろう。低軌道に投入するだけなら十数分で十分だと思う。
「RavnX(ラバーン・エックス)」は胴体下部に抱え込む形で2段式ブースターを搭載し、空中で発射するようだ。F-15がAIM-7スパローⅡミサイルを搭載するようなものだが、もちろん1基で、大きさからすればAGM-78スタンダードARMなどより大きく、増槽タンクのようでもある。吊り下げられたブースターの1段目にはロケットのノズルがクラスター(収束)となっていて2つか4つなのだろう。固体ブースターを筒状の弾体にいれるのは効率的ではないから、液体燃料なのだろうか。2段目はエンジン1基が露出しており、エンジン形状やノズルがベル型であることから液体燃料だと思われる。この部分は1段目ブースター内に入れ子式になるようだ。燃料が何かであるかは不明だが、液体酸素と液体水素なででは冷却装置が必要になるだろう。もしかしたら母機と同じでケロシン系燃料かもしれない。酸化剤も赤煙硝酸などの常温酸化剤かもしれない。
母機「RavnX(ラバーン・エックス)」の機体規模は、幅18m、高さ5.5m、重量は25トンだという。重量はF-15戦闘機の離陸重量に近いが、飛行高度に特化したのか翼幅は50%増ぐらいである。
米宇宙軍とパートナ契約を結んでおり、2021年第3四半期にASLON45ミッション予定し、0SP-4の契約を結んで、9年間で20回以上の打ち上げを予定しているという内容である。
映像を見る限り、母機は、エアインテークや翼の後退角からマック2.0級程度で飛行しそうである。尾翼の前縁半径が、超音速機にしては、やや大きくは感じた。V型尾翼であることが特徴である。主翼後方を避け、超音速飛行時の衝撃波後方の乱流を避けるためだろうか。尾部そのものが少し上がっているから、搭載作業の邪魔にならないように避けたのかもしれない。
ただ、これだけ大きなブースターを吊り下げて超音速で飛行ができるのだろうかという疑念もないではない。できたとしても、遠くの発射地点まで燃料が持つだろうか。無人機で空中給油をするかとも思われるから、飛行場から近い範囲での打ち上げに限定するのかもしれない。
まだ初飛行していないというから、この映像はCG画像だと思われるが一見に如かずで、とりあえず見てみると良い。
〇空中打ち上げの歴史
衛星を空中発射することは、古くから考えられ、また試みられて来たが、実用化したものとしてはペガサスぐらいではないだろうか。ただし無人の母機から発射するものの他の例を私は聞かない。
古くは米海軍が1958年(昭和33年)下のように試みた「パイロット」計画があるが、失敗に終わった。
パイロット (ロケット) – Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%82%A4%E3%83%AD%E3%83%83%E3%83%88_(%E3%83%AD%E3%82%B1%E3%83%83%E3%83%88)
浮上した気球から打ち上げるロックーンという方法もある。しかし気球の能力の制約もあり、観測ロケットの打ち上げに殆ど限られてきた。米国では1953年(昭和28年)ヴァン・アレン氏らアイオワ大学グループがディーコン・ロケットによって高層大気の観測を行っている。
日本においても糸川氏ら東大宇宙研グループが飛翔実験を行ったようである。
現在、日本の企業がロックーンによる衛星打ち上げを目指している例として下のものがある。
航空宇宙分野 | 株式会社 伸和精工「やまぐち空中発射プロジェクト」
https://shinwa-seikou.jp/utyu