google-site-verification=bsh9Vc0JE-gs5XhAa5d60ynarygvmIr38GwKW8JySfM
〇東沙の軍事的な価値
ここで改めて東沙諸島の軍事的価値を考えてみたい。
米軍が台湾への作戦の足掛かりとする空海域を中共側が支配・妨害するための航空基地としての価値は海自戦略研究会や防衛研究所の主張するとおりであり、これについて著者としても支持するところである。航空作戦において航続距離や進出時間の問題は絶対的なものだから疑う余地がない。作戦空域の近くに航空基地があることは、足の長い哨戒機だけではなく、戦闘機の運用もやり易くなる。現状の中共軍の空母の能力からすれば、戦闘機の運用機数をそれ程増やすことは困難であろう。
1 弾道ミサイル等の発射基地として
台湾や、その東方の海域、さらに我が国の八重山諸島を中共が着弾目標とした場合、ランチャーを東沙島に配置することで、より短射程の弾道ミサイルも活用できるようになることは言うまでもないが、長射程の弾道ミサイルを配置し、発射すればロフテッド軌道を辿って落下することになる。ロフテッド軌道の場合、高いところから落下するため弾頭の突入速度も大きくなる。再突入する弾道ミサイルの弾頭の速度が大きいと、見越角が大きくなって迎撃ミサイルが追いつかなくなるので迎撃ミサイルの迎撃範囲が狭くなり、より迎撃が困難となる。
また、最近取り上げられることが多い、極超音速兵器や巡航ミサイルなどは、命中までエンジンの推力で飛行するから、射程距離の問題は、初期に加速してしまえば良い弾道ミサイル以上にシビアだ。ガス欠になれば、一気に速度を失って近くに落下してしまう。
それに、慣性誘導を用いるものは飛翔時間が長い程、誤差が蓄積するから、目標までの距離が近いと命中精度向上にも貢献することになる。
2 海峡のコントロール
中共は、水深の深い南シナ海を戦略ミサイル潜水艦の聖域とするというのが定説である。
南シナ海を守ろうとするなら、入り口となる各海峡を抑える位置に軍事拠点を設けることは定石である。東京湾の海堡やマニラのコレヒドール要塞なども同じことであるが、これが大砲から対艦ミサイルに置き変わっただけのことである。とくに中共側にすれば台湾海峡は大陸側からしか発射できず、バシー海峡は両岸とも使うことができないから、東沙は海峡を抑えるためには重要な要地である。
もし南シナ海に艦隊を進めようとするならば海峡内で動く方向が限られる中、正面から対艦ミサイルが飛来することになる。
したがって東沙諸島を抑えることは南シナ海を確保するためには重要であるということになる。
3 観測ポイント
情報収集は平時から行われているわけであるが、海峡を通過する艦船の動向や、台湾やグアムの電波情報などを得ることができる。
地表は球面であるから、水平線より先の電波を傍受しようとするなら、極力高いところか、前方で傍受したいことになる。また発信点を求めるためには複数の個所から傍受して方位を求め、前方交会法で位置を特定するわけであるから、台湾などを取り囲む拠点が必要になる。
地球の球面の問題は電波を使う点でレーダーでも同じことで、水平線より下は見えないから、前方にレーダーの目を出すことで、より早く、米軍機や国府軍機を発見できるわけである。
艦艇に搭載したレーダーで警戒することもできるが、艦艇を常時、洋上に出しておくことは交代も必要であるし、天候によっては避難も必要になる。避難が必要な程度まで行かなくても波浪の影響でアンテナが傾くから、地上にレーダーがある方が安定して警戒が可能だろう。洋上か陸上かの問題は、中止となった、わが国のイージスアショア計画の理由と同じことである。
4 航空航法援助
今は北斗やGPSと言った衛星測地システム(GNSS)によって単座戦闘機でも洋上飛行が可能になったとは言え、一人のパイロットが常に戦闘行動を行いつつ位置を把握することは困難で、パーティゴ(空間識失調)に陥り海面に激突することもあり、やはり地上の航法援助施設がないところでの航行は苦手である。洋上での長距離飛行では航法員の乗る多座機の援助を受けることが一般的だ。南シナ海の防空を考えるなら航空作戦上、洋上にTACANやVORといった電波航法施設が欲しいところであろう。
5 水中航法援助
これは、後で紹介するように探査用の潜水艇などでは実用化されているものである。
中共は南沙のファイアリークロス礁、スビ礁、ミスチーフ礁という3つの暗礁を埋め立てたが、筆者は概ね3つの埋め立て地の配置が二等辺三角形になることを気に掛けていた。
もし、音響を発するピンガーという装置をこれらの埋め立て地に据え付けて同時刻に発すれば、水中の潜水艦は、受信の時間差でできる双曲線を組み合わせることで自身の位置を知ることができる。これを電波で行っているのが嘗てのロランなどであり、GNSSの原理も同じである。水中に電波が届かないので、これを音波に換えればよい。南シナ海を戦略ミサイル潜水艦の聖域とするなら、これができると便利なものとなる。
潜航中の潜水艦にとって自らの位置を知る方法は推測航法と慣性航法しかない。この二つの航法の欠点は時間が経つごとに誤差が大きくなることである。潜航時間が長時間になると無視できる大きさではなくなる。戦略ミサイル潜水艦に搭載している潜水艦発射ミサイル(SLBM)は、このデータで自身の位置を把握して、発射されることになるから、そのままでは命中精度が大きく落ちることになる。
そこで発射時に海面上に出てから天測航法やGNSSによって補正することになる。しかし弾道ミサイルのエンジンが作動する時間は数分程度であり、位置の補正ができるのはその間だけである。無理に短い時間内で本来の弾道に載せるため大きな修正をすればオーバーシュートや、逆に誤差が残ってしまうなど弾道軌道の安定に悪影響が残ることになる。水中にいる間から航法精度が保たれれば、無理な修正は必要なくなりミサイルの命中精度向上にも貢献するだろう。
先の3つの暗礁の埋め立て地は、南シナ海の南方をカバーするが、これに西沙、スカボロー礁、そして東沙諸島を加えると、北方も含めダイヤモンドを形成する。
これらにピンカーを設置すれば南シナ海全体で、潜水艦の航法を援助できることになる。
ピンガーによる測位について参考例を下に示す。
水中作業に必須な測位技術~いまさら聞けない基本のキ~
日本海洋株式会社
http://www.nipponkaiyo.co.jp/files/data/product/201111_Webinar02.pdf
東沙諸島を確保できれば、このように中共軍にとって価値が大きいのである。