〇無人機の利点
ここで紹介した「RavnX(ラバーン・エックス)」の特徴は、ドローンから発射するという点である。
衛星軌道への投入は、その軌道さえ決定されれば、母機の機上で判断して飛行コースを変えることはあまり考えにくい。衛星打ち上げという目的から、発射高度は成層圏になるだろうから天候の影響も受けにくい。予定したコースを飛行し、シーケンスに従って発射して基地に帰投するだけなら、わざわざ有人機である必要性が、そもそも低いかもしれない。
地上発射ロケットの1段目ブースターだって、スプートニク1号の時代から無人だったのだから、思えば人が操縦する必要は低くかったのである。搭載母機を着陸させる必要があるから有人機であったとも言えるが、打ち上げ後の「ファルコン9」のブースターが自動で軟着陸する時代である。ドローンの飛行技術も向上し、高い確率で着陸が成功するようになった。
高高度で発射するためには、パイロットも時間をかけて与圧服を装着する手間もあるだろうし、飛行中に体に受ける放射線の影響も避けられるから、メリットはあるだろう。
打ち上げシーケンスにおけるシステム・チェックなども自動化できるだろうし、母機の機上に人が居たところで、不具合があっても空中で実施可能な整備は限られる。地上発射であっても打ち上げ延期になるわけであるし、そもそも発射地点から人は退避しているのだから同じことである。
より軍事目的に特化して積極的な意義を見出すならば、ドローンが危険な任務を緩和でき人的損耗を避けることができることがある。
空中打ち上げのメリットは、打ち上げ地点の制約から解放されることであると書いたが、そうは言っても、空にも国境がある。打ち上げ軌道の要素は6つあるが、これをすべて満たそうとすれば、公海上空で発射するとばかりは言えなくなる。もちろん打ち上げ後に、打ち上げロケットを目的の衛星軌道へコース修正することはできるが、軌道投入までの時間が余計にかかったり、そもそも空中打ち上げでは、母機の離陸重量の制約から、母機に搭載されるブースターは余裕のない規模になりがちであるから、コースの修正は好ましいことではない。
特に軌道面内の元期(どの位置か)まで特定して、目的の軌道投入をしようとすれば発射地点や発射時刻もかなり限定されてくる。打ち上げ時には母機は針路を維持し直進する必要があるから、投入する軌道傾斜角や昇・降交点赤経などによっては、その飛行経路から領空侵犯が避けられない場合が出てくる。高高度を直線飛行をするというのは、現代の防空能力からすれば、良い鴨に他ならない。
平時には考えにくいが、戦時であれば、場合によっては敵国上空や中立国の領空を侵犯してでも、被撃墜を覚悟で飛行して打ち上げる必要性も出てくる可能性がある。むしろ、そうでもしなければ偵察タイミングや破壊された衛星の代替衛星投入の目的が達成できない場合も出てこよう。そもそもドローンが普及したのも、人的危険の回避が理由の一つである。ここで述べてきたとおり、ドローンからの衛星打ち上げは、大きな意義があると考える。
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