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東芝新開発の磁性材料は誘導モーターの性能向上、改良点は軍用にも重要

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〇軍事分野におけるモーター

 軍事分野でモーターが使われた例では、一つは戦車がある。エンジンの回転で発電した電気でモーターを回したのである。第一次世界大戦時のフランスのサンシモン戦車がそうであったし、その後もいくつか開発されている。要するにこれは変速ギアの製造が困難だったからに他ならない。これに対して英国の菱型戦車は、エンジンの回転を機械的に伝達していたので、左右の履帯の回転速度を変えるために、左右別のエンジンで回転させていたようだ。特に戦車は減速ギアだけでなく、走向も履帯の回転数差で制御しているからギアの組み合わせが大変複雑になる。当然、第一次世界大戦当時のことなのでモーターの回転数制御は電気抵抗制御であるが、可変抵抗一つで制御できるのはメリットであった。

 艦艇分野では、先ず普及したのは潜水艦であろう。水中では吸気できないので内燃機関を使うことができず、必然的に電動にする必要があったからに他ならない。しかし水上艦艇も電動のものが決して少なくない。実は、これも戦車と同じくギアを省略したいからである。ただしギア構成の複雑さより、巨大なギアの製造が大変で高価になるからである。

 いずれにせよ、これらは直流モーターを用いていたわけである。前項でも述べた通り、交流の周波数制御が困難だからであった。電圧と電流の変換だけでも、大きく重い鉄心に電線を巻き付けたトランスが必要になる。まして、周波数を変換するには、モーターと発電機をつながなくてはならず、無段階の変換など不可能であった。

 周波数を自在に変換するためには、波形を作る元となるパルス電流を作る必要があるが、高速で、歪のない矩形パルスを作ること自体が極めて困難なことである。高電圧を取り扱う場合、真空管が向いてはいるが高速化するには、小さく作ることが困難で電荷容量が大きくなってしまい高い周波数には対応が困難である。滑らかな正弦波を作るには、幅の狭い矩形パルスを沢山作ることが必要になる。幅が広ければ正弦波に多数の不要な凸凹の波が加わり回転ムラが生じてしまうからだ。 結局、高電圧大電流に耐えるパワートランジスタの出現が必要となった。しかも高電圧のパルス電流はリークしやすく単にパルスを作ればよいということでは済まない。回路全体の漏電対策が必要となる。

 よく知られているところだと思うが、前進後退を繰り返すような砕氷艦とか作業船などで電気推進は今日も広く使われており、それらは最近まで、例えば、我が国の砕氷艦「ふじ」や「しらせ(初代)」は直流モーターであった。 誘導モーターが使われるようになったのも比較的近年である。

 同期モーターが使われるようになるのは更に遅れ、海上自衛隊では「そうりゅう」型潜水艦からである。まだ数年前のことだ。小型で強力なモーターを実現するためには、強力な磁性体が必要だからである。もちろん脱調しないためのインバーターがあることは絶対条件である。高効率であることはエネルギーの損が少なく熱発生が少ないため冷却の必要性を大きく減じる。それはモーターそのものを密閉構造にできるということであり、密閉化は静寂性につながるから潜水艦には大きな利点となる。

 今日、一般的な艦艇では、始動の容易性や静寂性などの面からガスタービンと減速ギアの組み合わせが多くなっている。一部の支援艦艇では取り扱いの問題などから中速ディーゼルと減速ギアの取り合わせが多いようだ。電気推進を採用するのは、先に述べた通りの特殊な艦艇だけである。エンジンとモーターを搭載するのは、減速ギアを省略できたとしても容積を大きくとることになるし、何しろ効率が悪くなる。ちなみに商船では近年、直結低速ディーゼルが多くなっている。これは高価な減速ギアを使わずに済むからである。電動のメリットとしてエンジンと推進機の間を機械的な結合から解放することによるレイアウトの自在化があるのだが、どうも艦船に置いては電動は主流にはなりにくそうだ。

 戦車への適用も研究が行われているものの、容積的に厳しいようだ。現在のところ高速ディーゼルか、一部にガスタービンのものもあるのだが、トルクコンバーターを使った動圧油圧(ダイナミック・ハイドロ)システムが主流のようだ。動力伝達にディーゼル・エレクトリックと、静圧油圧(スターティック・ハイドロ)を用いたもののどちらが優位性があるかは難しいところである。もしバッテリーを搭載し電気推進にするならディーゼル・エレクトリックに軍配が上がるかもしれないが、さらなる容積と重量の増加の問題があろう。歴史的にみれば電動式の戦車は3Cとかマウスなどの巨大戦車として出現したが、いずれも歴史上のあだ花に終わった。戦場では良好な目標になるからに他ならない。静圧油圧式は建設機械での実績が豊富である。しかし被弾時、内部が油だらけになりそうだ。

 貨物車などを始めとする一般車両は、まさに今話題の電気自動車の話とほぼ同じ話となる。完全な電気自動車であると、充電時間などの問題で軍用車両には難しいかもしれない。ディーゼル・エレクトリックの構成もエンジンとモーターを搭載するのは整備上や補給上の問題がありそうだ。

 航空機への電動化の適用は、一般的に難しいと言われている。出力あたりの重量の制約がどうしてもネックになる。また、高高度域では放射線による電気のリークの問題が出てくる。小型のドローンなどには使えるかもしれない。 以上のように、ビークルの動力としては向き不向きが其々あるが、モーターを用いる場合、負荷変動に対する粘りを利かすには、どうも誘導モーターの方が向いているようだ。同期モーターもインバーター制御制御によって負荷による回転数変動に周波数を最適化することができるようになったと説明してきたが、フィードバック制御を加えると、今度は意図的な加減速への応答性が悪くなりがちになる。コンピューターを用いれば、フィードフォワード制御など、もっとアクティブな制御も不可能ではないが、そこまで本当にするの?という感がある。もう、そうなると野戦での整備はコンパートメントでの交換しかできなくなってしまうだろう。

 もちろん同期モーターの効率性も捨て難いが、東芝の開発した技術は誘導モーターの効率を上げるだろうから、誘導モーターが今後も使われるのではないだろうか。 ビークル以外にモーターが使われるものとしては、様々なものがあるが、著者の経験からは、ガトリング砲の動力としての利用例がある。通常の機関銃(砲)では、弾丸を打ち出す火薬の燃焼ガスの圧力か、弾丸の発射の反動を、弾丸の装填等に用いるのだが、ガトリング砲は外部動力を用いるのが特徴である。砲身の束を回転しつつ弾丸を装填、発射、排莢を順に行う仕組みである。動力は何でも良い。一部の戦闘機に搭載したものには静圧油圧モーターを用いているものもあるが、多くは電動モーターを使用する場合が多い。対空機関砲M167A1には、一つのガトリング砲に、これを作動する直流モーターが二つ使われていた。CIWSも同様だったと記憶している。最初は2台とも回転し、回転速度が上がってからは1台だけで回転を続けるようになっていた。この目的には直流モーターが適しているのだろう。ガトリング砲が発射する時間は数秒以内であることが多く、普段は止まっている時間が長いことや、回転に際してリンクされた重い砲弾を無理やり引き込むには大きなトルクが必要だからだ。停止状態からコンマ秒で定格回転にするには、停止時の大トルクを発揮できる直流モーターが最適だろう。

 レーダーアンテナを回転させるモーターには直流モーターと交流モーターの両方が使われていた。そのレーダーは81式短距離地対空誘導弾用であるため、回転させたり特定方向に指向させたりする必要があるのであるが、一定回転させる場合は交流モーターの方を利用していた。これが誘導モーターか同期モーターであるかは記憶が定かではない。それほど高速で回転させるわけではないが、一定速度で回すことを考えると同期モーターが良いのかもしれない。ただし、時代から考えると誘導モーターだったのかも知れない。

 自信はないが、おそらく同期モーターであったと思われるのは、先にも取り上げたコンバーターである。高射部隊の電源に使用していたものだが、商用50/60Hzを400Hzに変換していた。正確な回転数が必要だから同期モーターが向いている分野である。それでも大きな、はずみ車がシャフトの間に入っていたのは、回転速度の安定がそれだけ重要だったからだろう。

 類似したものを日立の展示施設で見ることができる。
日立製作所 創業小屋
100kw同期電動機及び、75kw直流発電機
http://www.ibaraki.biz/odairamuseum.html

 いずれの用途にせよ、同期モーターを負荷変動に応じた使い方をするためには、インバーターの制御回路が必要になる。回転子に電磁石を用いるものは構造が複雑で、回転子に給電するためのスリップリングの耐久性の問題があるし、永久磁石を用いるものは、小型モーターは別として、永久磁石のオンオフは不可能だから製造や整備の場合は厄介なものになる。下手に回転子を取り外すと、周囲にある鉄などの磁性体が飛んできたり、磁石そのものが金属に向かって飛んで行く可能性すらあり、大事故につながりかねない。なんでも吸い込むブラックホールのような危険性がある。

 取り扱いを考えれば、誘導モーターの方が使いやすいのではないだろうか。それを考えるなら、このほどの東芝が開発した磁性くさびの技術の意味は大きいのだろう。

〇モーターのこれから


 シャープな性能を求める分野には同期モーターを使うようになるかもしれないが、上で述べたように様々な面で扱いにくいのではないだろうかと考える。その点、誘導モーターは、様々な分野での実績が豊富である。おそらく直流モーターから交流モーターへの流れは小型のものを除いて変わらないだろうが、同期モータと誘導モータは、用途で棲み分けされて行くと考える。

 完全電動化はまた別の問題がある。電池が最大のアキレス腱なのだが、ここでは深くは触れない。

 最近、東芝が水性リチウムイオン電池を開発した記事を参考にされたい。

 東芝の開発した磁性くさびは、誘導モーターの使用分野を広げ、今後も誘導モーターが使われる余地を大きく広げたと言ってよかろう。

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