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東芝新開発の磁性材料は誘導モーターの性能向上、改良点は軍用にも重要

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〇モーターの歴史


 1830年代に電磁誘導が発見され、その電磁誘導を動力に応用したので、すぐにモーターが作られた。したがってモーターの出現は意外に早い。最初は蒸気機関からのピストンとクランク軸の真似だったのだろうが、往復式であった。電磁石で鉄片を往復運動させたのである。このレシプロ(往復)式も比較的に早い段階で回転式となっていった。 この時のモーターは直流モーターである。回転子に永久磁石を入れて、固定子側のNとSを入れ替えると、それに引きずられて回転子が回転する仕組みだ。ブラシという回転位置で電流の方向が変わるスイッチを使って、直流モーターでは、周囲の電磁石に発生するNとSを切り替えている。固定子のコイルに流す電流を可変抵抗で変えれば回転数を変えることができる。簡単に回転数を変えることができるのが直流モーターの利点の一つだ。ちなみに付け加えておくと現在ではブラシを使わないものや、無駄の多い抵抗制御ではないものも開発されていることを断っておく。発明されてから間もなく2世紀だから、流石に多少は改良されている。

 直流モーターは制御が容易なため現在でも、割合い、小型のものを中心に使われている。ただ、大型のものについては製造メーカーが減少し少なくなっていると言われている。しかし割合、最近まで直流モーターは大小取り合わせて、ほぼ独壇場だったのである。電池で使用する場合は、もともと直流電流なので問題ないが、商用電源などを使う場合、長距離送電するには電圧を高くした方が効率がよく、電圧変換の容易な交流電流が使われるから発電所から送電される電気を使う場合には直流に変換する必要がある。コンバーターと英語で呼びならわす場合が多かったが、日本語では電動発電機と呼ばれるものがあった。交流を直流など変換するために交流電動機で直流発電機を回す、つまり電気で電気を発電したのである。実は著者も後で述べるが仕事で扱っていたことがあるし、小型のものが零式艦上戦闘機の通信機用の発電機に使用されている。交流発電機を回すことで周波数変換にも使われる。

 あるいは二極管などの真空管も使われた。ラジオなどの家電品の場合はこちらが多いだろう。鉄道などの大電流用には水銀整流管などが使われた。

 直流モーターが得意とするのは低速回転である。特に直巻直列の直流モーターの場合が著しいが、停止している時が一番回転トルクが大きい。逆に高速回転になると急激にトルクが小さくなってしまう特性がある。もとより直流モーターに限らず電動全般に言えることであるが、すでに作られている電気エネルギーを貯めておいて使うので停止状態から、強いトルクを発生できるということもある。直流モーターでは、両方が重なり、低速時のトルクの大きいことが際立っている。

 1990年代にトヨタ自動車がハイブリッド車のプリウスを世界で最初に発売した。この時のモーターは直流モーターだった。ある程度高い回転数で最大トルクを発生するガソリンエンジンとベストミックスだったのである。ガソリンエンジンなどの内燃機関は内部で熱エネルギーを作るので低速回転では力を発揮できないからだ。燃料を絞ると火がつかなくなるのだ。電気自動車の発進が力強くスムーズなのは、低速回転からの大トルク発生が理由なのである。

 完全な電気自動車であると、高速回転が得意な内燃機関の力を使えないから、高速域まで高いトルクで回転するモーターが必要である。しかし直流モーターでは高速回転が困難なので交流モーターが必要になる。交流モーターを使うには回転数にあった周波数制御が必要で、なおかつ大電力を制御する必要性から最近まで実現できなかった。

 実は新幹線も長いこと直流モーターを使用していたが、現在は交流モーターとなっている。新幹線は交流送電なので直流モーター時代には整流していたわけだ。ある意味、直流モーターで無理をしていたのだろう。そこは機械的な加速ギアを用いていたのかもしれないが、私はあまり詳しくない。

 その交流モーターにも、誘導モーターと同期モーターがある。新幹線や現代のハイブリッド車が使用しているのも誘導モーターである。同期モーターを使用するものは開発中のものでは存在するようだ。

 誘導モーターは、交流磁界があると導電体内に渦電流が流れ、電磁力が発生して、コイルに吸引された導電体が動くという原理に基づいている。一番、目につくのは電力会社が取り付けた電力計だ。構造上の特徴は回転子に永久磁石を使わないことである。一時的に磁石になれば良いのであるから、渦電流が流れるように導電体であれば良い。要するに鉄の塊が回るのである。それに対し同期モーターは回転子に磁石を用いている。固定子に交流を流し、NSの位置関係を回転させると、その位置に回転子の磁石もNSの位置が動いて行く原理だ。理屈は同期モーターの方が簡単である。

 いずれにせよ固定子側の磁界の位置を動かすのである。機械的に動かすのではなく、NSの場所を変えるのである。道路の工事現場で、連なった電灯が点滅すると動いているように見えていることがあるが、あの理屈だ。直流モーターの説明でブラシに触れたが、ブラシがNSを切り替えていることになる。

 誘導モーターは原理的に、その磁界の移動位置より遅れて回転子が回転する。その差が大きいほど渦電流が大きくなり大きなトルクが発生するからで、反対に、動いていない時も含め、差がないと力が出ない。だから始動時には別のモーターが必要だったり、始動用のモーターに当たるものが組み込まれて内蔵されている。

 大きなトルクがでるということは動力には向いているのである。反面、必ず磁界の回転数よりロスが生じるので効率は悪くなる。一方、同期モーターは磁界の回転数で回転子が回転するので、ロスは少なく、精密な回転数が必要な分野で使われてきた。しかし、大きな負荷が掛かると回転速度が付いて行けなくなり、回転ムラが生じてくる。これを脱調という。脱調を生じるため大きなトルクの発生が難しかったのだが、今日、回転数に併せて周波数を変えることが容易になったので、問題なく使えるようになって普及してきたのである。

 しかし、回転子に磁石が必要となると、どうやってその磁界を生じさせるのかが問題となる。昔は強力な磁界を作るのに適した永久磁石がなく、電磁石を用いていたが、回転子に磁界を作る電流を送るのが難しく、内部に電磁石を組み込むのも難しかったので普及を妨げていた。動いているものに電力を送るのは結構面倒である。コイルを回転子に組み込めば大型化は避けられない。ところが強力な磁性材料が発明されたことにより、永久磁石を使うことができるようになって、これらの問題が解消された。ただし、その性能は永久磁石の磁性材料の性能に左右されてしまうことになる。これは材料の問題なので、実用面も含めて使えるような新たな物質を探すのは簡単なことではない。しかも、ネオジム磁石につかうような希土類は資源量が乏しく偏在しているなど、貴重なものなのである。

 誘導モーターの回転子は、先に述べた通り、電気を通す物質、すなわち導電体であればよいので、もちろん性能にあった材質はあるが、鉄でも銅でもアルミでもよく、しかも導電体のいわば塊に過ぎないので構造としても堅牢で故障しないというメリットがある。 原料資源の希少性や価格を別にすれば、同期モーターも周波数を制御する技術が確立し、高負荷時も回転ムラを発生することなく回すことができるようになった。そうなると誘導モーターの優位性が小さくなったのであった。すべりがないと回らないという原理的問題のために、効率で、すべりのない同期モーターには絶対に敵わないからである。

 しかし、今回の東芝の新技術は、この効率の差を小さくしたわけだ。安くでメンテフリーのモーターで、同期モーターに近い性能が得られるなら、誘導モーターでもいいよということになる。

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