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もがみ級FFMは何で出来ている?鋼船では磁気機雷が感応 平面的なのは非磁性が壊れる加工を避けたか

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〇オーステナイトステンレスか、CFRPか

 ステンレスには種類があってSUS304やSUS316は非磁性体である。硬く、比較的に脆い材質で熱伝導度も小さいから加工時に熱を持ちやすい。ニッケルを含んでいるものの、ステンレスである性質そのものだが酸化被膜を作るから溶接も手間が掛かるし、水素脆性を起こしやすく、造船には難しい材質ではある。錆び難いが、穿孔ができると電気的な分極が発生し内部の粒界で錆が進むという特性もある。
 その辺りは下の記事にも取り上げた。

 通常の鋼や鉄は常温では体心立方格子であり、8つの隅に原子がある他に、立方体の中心にも原子がある配列で、911℃に加熱すると面心立方格子に相転移する。面心立方格子とは、8つの隅に原子がある他に、6つの面の中心にも原子がある配列のことである。ステンレスであってもフェライト系やマルテンサイト系のSUS4百番台なら同じく相転移を起こす。 
 しかし、オーステナイト系ステンレスは、その高温時に形成する面心立方格子状態のままでクエンチ(急冷)して常温で維持させている。しかもニッケルを加えることで、相転移温度も下がるのである。
 金属内部では、通常原子を取り巻く電子雲が繋がり、金属内に電子が満ちている。この時、面心立方格子は原子の間隔から電子のスピンが不揃いになり難い。通常、同じ軌道内の電子は逆向きのスピンの電子しか入ることができないから、打ち消し合って磁力が生じないが、この不揃いによって差分の磁力ができる。体心立方格子では不揃いによって磁区ができ、それによって残留磁気が生じる。

 SUS304は、18-8ステンレスとも呼ばれる。意味はCrが18%ということだ。まずCrそのものが非磁性体だ。しかしCrは面心立方格子への相転移温度を上げてしまう。ミソは8%のNiを加えたことだ。Niそのものは強磁性体である。しかし先に述べたとおり面心立方格子への相転移温度を下げる効果があるのだ。
 これをクエンチして固定してあるから非磁性となるのである。
 CFPRは、炭素繊維強化プラスチックの事である。配向された繊維をプラスチックのエストラマーが取り囲んでいる。プラスチックはフッ素系の例外を除けば有機ポリマーだ。このプラスチックには熱硬化性と熱可塑性のものがあるが、大量生産品を除けば熱硬化性のものが用いられている。
 もちろんCFPRは有機物であり、共有結合で出来ているから電子雲は硬く原子の結合に閉じ込められて非磁性だ。マグネチックシートのように磁性材料を充練して敢えてプラスチックを磁性体にすることもあるが、そのようなことをしない限り磁性を帯びることはない。

 先進船体構造技術の図には、ステンレス製とCFPR製のの二つをハイブリッドにしている。CFPRはプラスチックであるとはいってもカーボン繊維があり、多少は電波を反射するからこれだけでステルス材料という訳には行かないだろうが、金属よりはマシである。
 非磁性体ならば、アルミのような軽合金でも良いが、これは火災が生じた時の問題や熱伝導が大きいことなどで、近年は艦艇には使用が避けられる。
 もちろんCFPRは、熱硬化性であろうと有機物だから400℃ぐらいに達するまでに熱分解して炭酸ガスになってしまう。まあ完全にガス化するのも大変だから黒い炭が残るのが普通だ。熱硬化性樹脂なら焦げるが、融けることはない。
 非磁性だけを考えれば、掃海艇のように木造やCFPRで建造すればよい。しかしである。木材やCFPRは複合材として強度を保っている。その強化繊維の配向で性質が変わるのだが、基本的に引っ張りには強くとも、圧縮には比較的に弱い。しかも強化繊維とエストラマとなるプラスチックの接着性の部分に弱点があり、まだ十分に解明されていないし、内部剥離が起きても弾性が強く見た目が元通りになってしまう。もちろんへこんでも金属のように叩き出しもできない。

 強度上の問題から木造の場合、全長100mぐらいが限界と言われている。ちなみに木材とはセルロース繊維をリグニン(ベンゼン環が網目になったようなもの。)が取り囲んだ天然のFPRだ。
 艦船は、橋などと異なりいつも一定の方向にだけ応力が働くわけではない。波との関係でサギングやボギンクの状態が繰り返すので、強度が低いと船体が折れてしまう。大型艦船と言ってもフリゲートだが、流石にCFPRだけでは作れないのだろう。だから掃海艦などは大きくても1,000t未満である。CFPR製になったので6~7百t程度に収まったようだが、木材より強度が高いのだろう。骨組みなどを細く薄く作れるからである。普通、金属だともっと細く薄くできるのだが、密度が大きいので材質次第だ。
 見た目では、もがみ級FFMが、何で出来ているのか判断するのは難しい。

 ステンレス鋼で製造するのは、先にも述べたが造船に必ずしも向いている材料ではない。ことに問題なのは強度だけなら十分だろうが、磁性という観点からするとオーステナイト系ステンレスには問題があるからである。
 相転移温度以下に面心立方格子組織を固定化しているので、何かの切っ掛けで体心立方格子になってしまうのである。しかも面心立方格子は内部に取り込んだ合金を構成する原子を閉じ込めやすいが、体心立方格子は内部が狭いわりに出口が広い格子なので、防錆と非磁性を助ける肝心のCrが格子から抜け出して結晶化してしまうのである。
 こうなるとオーステナイト系ステンレスと言っても磁性を有してしまうことになる。例えば加工時に応力をかけたり熱を加えると変化しやすい。

 造船においては、今は、昔のようにケガキをするのではなく、コンピュータ制御で圧延鋼板を切り出すのだが、船の形状にあわせて鋼板を曲げるのである。とはいっても自動車や航空機と違って、巨大で厚い鋼板をプレスで塑性加工するというわけには行かない。圧延鋼板にガスで熱を加えて粒界の大きさを変化させて、それを急冷して設計どおりの曲面を作るのである。
 そのような加工をすればオーステナイト系ステンレスの非磁性の特性は失われてしまう。となると曲面を作るのは難しくなる。
 もがみ級FFMの形状に平面が多い理由にはそれもあるのではないだろうか。

 もちろん水という流体を相手にする以上、平面だけで建造したのでは、LSTやLCMのような箱型の船になり、速度は出ないし、波に弱いということになる。もちろん掃海任務においても水中に渦を作り感応機雷を起爆する要因になりかねない。
 CFPRを使うのは、そのような曲面を作り易いからではないだろうか。今では大型の部材でもバンタム法などで製造が可能になった。昔は、グラスファイバーを用いるGFPRであるが、ガラス繊維の布を重ねながら手塗でエストラマを塗布していたものだった。これでは配向の制御どころか品質を一定にすることは難しい。おそらく公園の手漕ぎボートやスワンボートなどは、そのように製造されているのだろう。実際にガラス繊維が見えることがある。
 もがみ級FFMの船体の表面には電波吸収のためのセラミックなどが塗布されているともいわれているので外観的には分からないけども、艦首、艦尾やビルジなどの曲面にCFPRが使われているかもしれない。

 私は、もがみ級FFMの艦首の形状が気になった。軍艦というより商船のように大きな半径で作られているからだ。DDなどの艦首はもっと鋭角である。そうなった理由の一つにはステルス性を考えて揚錨装置などを内部に取り込むための容積を得るためであると思われるが、細い艦首だとFPR製だと強度上の問題があるのかもしれない。衝突などした際に折れてしまうのではないだろうか。
 掃海艇のエンジンの工場を見学したことがあるが、銅か何かで作られていた。もがみ級FFMはCODAG方式でMAN社12V28/33D STC ディーゼルエンジン×2基とMT30ガスタービンエンジン×1基だそうだが、舶用ガスタービンは普通、航空機エンジンから発展したこともあり、高熱部品以外は軽合金で作られている。耐熱部品にはニッケル系が多いがインコネルなどは金属化合物といわれるような性質のものだから磁性はないのだろう。ディーゼルもシリンダーブロックなどは軽合金で作ることもできる。現代の自動車用のエンジンに鋳鉄製は殆ど見なくなった。
 ただガスタービンを用いる以上、減速ギアが必要となる。動力用の歯車は強度や摩耗に耐える鋼材が使われるから非磁性体で作るのは難しい。普通、作業を行う艦船には細かい作業を要するからディーゼルエレクトリックを採用する場合が多いし、ガスタービンとは相性が良いのだが、掃海艇には使われていない。これも磁性を嫌うからだろう。どの様な形式のモーターや発電機も磁性体の塊だからだ。

 ただ、掃海艇にも浮遊した機雷を破壊するため機関砲を搭載している。掃海艇はJM61-M、所謂バルカン砲だが、流石に砲身などを非磁性体で作るというわけには行かないだろう。もがみ級FFMには62口径5インチ砲×1基が搭載されているが、JM61-Mよりもずっと大きい。護衛艦だから、それ以外にも様々な武装や装備品があるのだが、磁気機雷に感応しないのだろうか。
 珍しいと思ったのは、サイドスラスターが確認できることだ。護衛艦は強度上の弱点になるから、サイドスラスターの装備には消極的だという話を聞いたことがある。FFMの採用の理由の一つが人員不足を補うことだそうだ。これならYT(曳船)の力を借りなくても良い。ただ、これを作動させる動力も、電動でないとすればどうするのだろうか。油圧スターティックという選択肢も無くはないのだが。

〇どの程度の透磁率か

 何はともあれ、オーステナイト系ステンレスで磁気機雷は感応しないのだろうか。艦そのものが磁化してなかったとしても、透磁体である以上、地磁気を集めてしまう。哨戒機のMAD(磁気探知機)は、潜水艦が地磁気を集めるのを利用して存在を知るものだ。
 どの程度、磁束を集めるかは透磁率 [H/m]で示される。真空中の透磁率は1.257×10^-6である。 水は1.256627×10^−6で空気は1.25663753×10^−6だから殆ど変わらない。潜水艦は通常、水中にいるわけだから、その場にいなければ地磁気はそのままである。
 鉄 (99.8% 純鉄) は6.3×10^−3で、炭素鋼は1.26×10^−4であるから、地磁気は百倍から数千倍になる。

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