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入札日:令和3年10月4日
航空自衛隊那覇基地
通信四角鉄塔鉄骨部材等の撤去更新及び全面塗装
https://www.mod.go.jp/asdf/naha/acs/posts/koukoku3.html
この工事場所は与座岳分屯基地である。見た所、対空無線のロケットアンテナを載せる塔だ。この手の塔は、レーダーサイトや航空基地にはどこにでもある。
施設としても、何ら特別なものではなく、ありふれた鉄塔である。特別な構造はないし、もちろん意匠もない。目的と費用を考えた作りで、高圧鉄塔に似た感もある。ただ一部の材料に丸パイプを用いているのが特徴だ。
構造としてはL鋼(山型鋼とも言う。)の枠に、丸パイプのブレース(和建築で言うところの筋交い)を配したトラス構造だ。実は四隅の主要な構造材がL鋼であるかは、明確には付属の図面だけではわからないが、グーグルマップの画像の明暗から大きな鋼材が平面的な明るさなのでL鋼と判断した。主要な材料としては、おそらくL鋼による鉄骨構造であるが、都会のビルディングにあるようなH鋼をボルトナットや隅付の溶接で締結した重鉄骨構造というよりは、個人住宅にも一部使われている軽鉄骨構造に近いような感じである。
重鉄骨構造は、太いH鋼の接合部分を剛的に作る、いわばラーメン構造である。荷重を加えた時に中間部分に曲げ応力が加わっても、隅にあたる結合部分の角度が硬く変わらなければ、全体としての変形は起きにくい。これを歪めようとすると、中間部分を大きく変形させなければならないからだ。この重鉄骨の場合は通常はブレースを設けない。ただし近年、耐震補強のため外付でブレースをH鋼で作った枠を後付けしたものを散見するようになった。
この重鉄骨に対して、一般的には細いC鋼材を使うことが多いが、その枠にブレース加えてトラスとする構造が軽鉄骨構造だ。
隅部分はボルトナットの締結などをする寸法がないから、嵌め合わせただけかビス止めをしている。重鉄骨構造がラーメン構造的に強度を支えているのに対して、隅部分はピン結合に近く、自由に動くようにして、全体としてトラスで形状を保持するわけだ。
この鉄塔は、純粋な軽鉄骨よりは、もう少し板厚の厚いL鋼を利用しており、中間的な構造だ。ブレースに丸パイプを使用している理由は分からないが、おそらくL鋼よりも、同じ重量では撓みなどに対する強度があるからだろう。ただし、締結部分が曲面になると、他の部分との接合がそのままでは出来ないので、結合部に羽子板状の結合部を溶接しているようだ。それらの付加部分を加えても、全体としての重量を減らしたのだろう。自重を減らして構造に余裕を取ったのではないだろうか。構造としては全部L鋼で溶接して作ってしまった方が簡単だろう。あるいは交換することを想定して作ったのかもしれない。
橋梁などと異なり上下方向に加わる力の方向性がないから、どう言うかはわからないが、左右のどちらからの力に対応できるようにワーレン・トラスとなっている。働く力が重力ではなく、風なので、どちらから力が加わるか分からないからだ。一方方向から応力が働くなら、鉄骨の場合はブラッド・トラスを用いることが多い。橋梁だと風が吹き上げる力より、重力の方が大きいから、下向きの応力を考えて作るところだからだ。
STK400とあるのは、一般構造用炭素鋼鋼管で、SS400は、SS材(一般構造用圧延鋼材)で、引張り強さを400N/mm2のものということだ。約0.15から0.2%前後の炭素量が含まれている低炭素鋼(軟鋼)で焼き入れ性はない。ビッカース硬度換算で120Hv~140Hv前後だそうで、わりと柔らかい材料だ。切断や溶接などし易い材料ということだろう。F8TはJIS規格の高力ボルトではなくて、大臣認定された溶融亜鉛メッキ高力ボルトのことだそうだ。溶融亜鉛メッキ高力ボルトとは、錆びにくい高力ボルトのことだという。古くはリベットで留めていたものだが今はハイテンションボルトなどで締結することが多い。もちろん溶接も増えた。高度成長年代、工事現場ではリベットを打つ音や杭打機の音がして、トラックも軋みながら走っていたものだが最近は静かになって寂しいものだ。
戦闘での防御を考えて作ったものではないだろうが、このような枠組みの構造というのは結構強いのではないだろうか。そもそも爆風などは骨材の間を抜けて行く。もっともアメリカの戦艦ミシガンにあった籠マストは、砲身破裂の事故の損傷が遠因とよって倒壊している。
骨組みの間を風が流れるとはいっても、その後ろにカルマン渦が発生するから、空気が絡みついてしまい、鉄塔全体としては大きな空気抵抗を受けてしまうだろう。見た目はスケスケでも、空気の流れ的には四角い箱になっている可能性がある。風が抜けて行くより、鉄塔の周りに大回りしているかもしれない。翼系断面のカバーでも骨組みに取り付けたらどうだろう。発泡スチロール製みたいなもので良いと思う。鉄骨の周りを風向きに向かって自由に回るようにしておけば、渦は少なくなり、間をスムーズに風が抜ける筈だ。カバーがあれば塩分も付着し難いだろう。
令和元年には台風15号によって東京電力の木内線鉄塔№78と79が倒壊したが、これは地形との相互作用で想定外の風圧が掛ったためでやむを得ないそうだ。送電鉄塔は秒速40mに耐えるようになっているとある。
令和元年台風15号における鉄塔及び電柱の損壊事故調査検討ワーキンググループ中間整理 令和元年12月4日 経済産業省
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/denryoku_anzen/tettou/pdf/20191204_report_01.pdf
工期は契約締結後ということで10月~年度末の3月31日である。これは台風シーズンを避ける意図もあるのだろう。沖縄は台風銀座とも言える場所だから時期は大切である。また日差しが強い。那覇の緯度はエジプトのカイロと同じだからだ。作業や塗装の乾燥に影響するのだろう。
仕様書を見ると撤去更新する部分が大変多い。通常、これほどの骨組みを交換するという作業はあまりないのではないだろうか。中間から上部側のブレースのほぼ全部が交換することになっている。また、これはL鋼の様だが水平面のブレースも殆ど対象となっている。
これを一度に全部、撤去してしまうと捻じれに非常に弱くなってしまうだろう。部分毎に行うのか、一時的に補強をするのかは業者が考えるところだろう。
これを見ると沖縄の潮風の影響はかなり大きいのだろう。私も沖縄で勤務したことがあるが、飛行機の塗装は厚いし、電子装置の空冷路に塩分が吹き込んでしまうので除塩装置が必要になったりする。
この通信四角鉄塔の立地場所の標高を調べると157.7mとなっている。この塔の高さは20mだそうだから、アンテナの高さは180m程になる。地球の球面の制約のため55kmまでは電波が直接届く。太陽系第3惑星が電波を遮るわけだ。実際には回析などもあるので多少その先まで届くかもしれない。もちろん上空なら更に遠方、宇宙の果てまで届くだろう。もっとも与座岳分屯基地の歴史は48年しかないから、古い電波が48光年ぐらいまでしか行ってない筈だ。その距離にはLHS 3844という星があるそうだ。実用的には信号よりノイズが勝ったところが限界となる。とはいうものの月に携帯電話を置くと、全宇宙で最も電波の強い星になるそうだから、とんでもなく遠い所であっても、時間さえ掛ければ通じるかもしれない。
55kmであれば慶良間列島はもちろん、陸地なら名護市ぐらいまでの距離だ。この辺りのADIZは南と東西方向に400kmはあるから、低空では届かない可能性がある。もっともレーダーの電波も届かないので意味はないかもしれない。どのみち未確認機が是より近づいてこないと存在自体がわからないからだ。それでも、かつての戦艦の主砲の射程距離よりは長い。FIRやSARのエリアはこれより遥かに外側に広がっているから、低高度で遭難して助けを求めても直接は通話できない。その為、今は衛星を通じて救助信号を出すようにしている。
FIR、SAR、ADIZ、EEZの範囲の比較については(140)で述べた。
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(資料番号:19.3.22-1)「現代の紛争と情報通信技術」『NIDSコメンタリー』(防衛研究所)第93号(2019年3月13日)
(資料番号:19.2.25-2)「日本国政府と中華人民共和国政府との間の海上における捜索及び救助についての協力に関する協定」(日中SAR協定)(2019年2月14日発効)
(資料番号:19.1.15-1)「日本国政府と大韓民国政府との間の海上における捜索及び救助並びに船舶の緊急避難に関する協定」(1990年5月25日発効)
(資料番号:11.11.11-4)『航空施設』第35号(2009年)
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