自衛隊調達巡り(209)
入札日:令和4年11月25日
中央業務隊
高出力レーザー・システムの利用に係る部外委託教育等
https://www.mod.go.jp/asdf/choutatsu/kichikeiyaku/ichigaya/koukoku/koukoku-4-88.pdf
chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/
https://www.mod.go.jp/asdf/choutatsu/kichikeiyaku/ichigaya/koukoku/shiyousyo-4-88.pdf
この仕様書の作成部隊等は航空幕僚監部防衛部事業計画第1課となっている。この事業計画第1課であるが、令和3年(2021年)3月18日に内部組織の改組があり、防衛部装備体系課が事業計画第1課に、情報通信課が事業計画第2課に変わっている。
平成30年度の電話番号簿しか手元にないので、改組以前のものしか分からないが、下の規則の関係個所をみると次の様な編制になっている。因みに航空自衛隊訓令とは、航空自衛隊と冠しているが航空自衛隊の規則ではなく、航空自衛隊にむけた防衛庁(制定当時)令である。
昭和34年航空自衛隊訓令第9号「航空幕僚監部の内部組織に関する訓令」
http://www.clearing.mod.go.jp/kunrei_data/a_fd/1959/ax19590529_00009_000.pdf
「
(事業計画第1課)
第50条 事業計画第1課に、次の4班を置く。企画班 航空第1班 航空第2班 防空システム班
(企画班)第51条 企画班は、次に掲げる事務をつかさどる。
(1) 防衛省組織令第148条第1号に規定する態勢の整備に係る計画の総合調整に関すること。
(2) 防衛及び警備の方法の研究改善に関すること(事業計画第2課の所掌に属するものを除く。)。
(3) 課内の事務の総括及び庶務に関すること。
(航空第1班)
第52条 航空第1班は、次に掲げる事務をつかさどる。
(1) 航空機(戦闘機、救難機、練習機及び偵察機に限る。次号において同じ。)及び航空機搭載弾薬の態勢の整備に係る計画に関すること。
(2) 航空機及び航空機搭載弾薬に係る装備の基準に関すること。
(航空第2班)
第53条 航空第2班は、次に掲げる事務をつかさどる。
(1) 航空機(輸送機、空中給油・輸送機、飛行点検機、特別輸送機及び多用途支援機に限る。次号において同じ。)及び飛行運用支援の態勢の整備に係る計画に関すること。
(2) 航空機及び飛行運用支援に係る装備の基準に関すること。
(防空システム班)
第54条 防空システム班は、次に掲げる事務をつかさどる(航空第1班及び航空第2班の所掌に属するものを除く。)。
(1) 航空機、装備品及び食糧その他の需品(以下「航空装備品等」という。)の態勢の整備に係る計画に関すること。
(2) 航空装備品等に係る装備の基準に関すること。
(事業計画第2課)
第55条 事業計画第2課に、次の4班を置く。情報システム班 宇宙領域班 サイバーセキュリティ班 先端技術推進班 」
電話番号簿と比較すると、防衛部の内、防衛課と施設課には変化はないが、装備体系課から変わった事業計画第1課では、装備体系調整官、装備体系企画班、装備体系第1班、装備体系第2班及び性能評価班が廃止となり、上の訓令どおり、企画、航空第1班、航空第2班及び防空システム班が新設されている。 評価→ 航空→ 防空→ システム→
なお、電話番号簿には庶務係、自動警戒管制システム事業推進室、C-1後継機室及び性能評価班というのもあるが、これらは訓令で定められたものではないので、現在どうなっているかは分からない。
情報通信課から変わった事業計画第2課では、計画班、電子計算機システム班、情報通信運用班が廃止となり、情報保証班が運用支援・情報部の課である情報課に配置換えされ、同じく訓令のとおり、情報システム班、宇宙領域班、サイバーセキュリティ班及び先端技術推進班が新設されている。 情報→ 通信→ サイバー→
なお、運用支援・情報部は陸幕の(208)で紹介した「別班」の存在が噂される運用支援・訓練部に該当する組織で、空幕の方にも運用支援課と情報課の間に墨塗りの1行が存在している。やはり公にできない何かが各幕横串で存在しているのかもしれない。電話番号簿の統幕には運用第2課の次に3行分、陸幕には前述のとおり、海幕の運用支援課の最後にも一つの課に相当する墨塗がある。
因みに、この日の組織改組には(207)で紹介した科学技術官の新設も行われている。 科学→
この組織改組の理由については、どこにも調べた限りでは記されていない。他の幕でも横並びの改組は行われてないから、防衛省の訓令による改組だとしても航空自衛隊独自のものだろう。
昨日まであった業務が一気に全部無くなることは考え難いし、他の部の隷下になったのは情報保証班だけだから、それ以外の業務が他の部の業務になったとも考え難いから、各班や業務計画第1課と同2課の間で、シャッフルされたのだろう。
人事的にみると、下のサイトのように、そのまま改編後の官職に変更されているようだ。
梅シャツ on Twitter: “他にも空幕の組織が色々と変わっている …
https://twitter.com/ume_shirt/status/1372522940642721792
http://www.clearing.mod.go.jp/kunrei_data/g_fd/1963/gy19631111_00062_000.pdf
「他にも空幕の組織が色々と変わっているようで。
防衛部装備体系課→防衛部事業計画第1課?
防衛部情報通信課→防衛部事業計画第2課?
事業計画第2課が情報・宇宙・サイバーセキュリティ関係っぽい。」
発令通知の画像を見ると( )内の前職から、そのまま改称後のポストにスライドしている。少なくとも課長のレベルでは、肩書が変わっただけのようだ。ただ課長はすべて1等空佐職である。自衛隊では1佐以上はVIPという位置づけになり、特技職(「職務の種類及び複雑の度と責任の度が十分類似している職をまとめたもの」該当訓令)に関わらない補職(「自衛官に(中略)特定の職を命じ(中略)勤務若しくは(中略)付を命ずること又は兼補を命ずること。」該当訓令)となる。班長以下は2等空佐以下だから、人事的に所謂「座布団」も「生首」もすべて変わった可能性もあるのだが、その証拠となるものは現時点で見ていない。 勤務→
となると、従来の機能別組織も引き続くところなしに、全部、シャッフルしたのかもしれない。
この調達の仕様書作成に当たったのは、先に述べたとおり事業計画第1課であるが、どの班のものかについては記載がない。機能的にも各班の組織が変わっていれば、防衛部装備体系課だったときの機能を引き継いでいるとの類推もできなくなる。
後で述べる、この調達の対象となるドローンやレーダーのような高エネルギー指向デバイスなどは、業務計画第2課先端技術推進班の方が妥当なようにも見える。しかし、この調達は事業計画第1課なのである。どうやら先端技術の範疇には入れていないらしい。
先に書いたとおり、事業計画第1課には、企画班、航空第1班、航空第2班及び防空システム班の4個班からなる。UAVに関しているとは言え、撃破する目標であって、あくまでも高出力レーザー・システムであるから、航空の2つの班ではなさそうだ。 UAV→
防空システム班でも良さそうだが「(2) 防衛及び警備の方法の研究改善に関すること(事業計画第2課の所掌に属するものを除く。)」との文言が見られることから、企画班なのかもしれない。現時点ではこれ以上、追及するのは困難である。 警備→ 研究→
この調達の目的とするところは、「運用に係る一般的な知見(運用性、視認性、操作性及び安全確保にあたっての留意点等)及び運用構想等を固めていくための資を得る。」というものだ。
この目的を達成するために、2日間(1日7.75時間)に亘って、最大10名を基準に対し、レーザー・システムの操作実習と、これに先立つ実習前教育(レーザー・システムの基本的なシステム構成、機能・性能及び使用上の安全(レーザー照射を停止する判断を含む。))を実施させるものである。
実習については、4回以上、小型UAVに対しレーザーを照射し、撃破にいたるまでの訓練を実施するというものだ。
ここでいう小型UAVとは、トイドローン(重量200g以下の無人航空機←著者注:矛盾した表現であり200g以下は無人航空機には該当しない。)及び空撮用小型無人機(マルチコプター(3つ以上のローターを搭載した回転翼機)型のDJI製Phantom4pro相当)としているが、さらに定義として、小型UAVとは、「米陸軍の分類区分(”Eyes of the Army”,U.S Army Roadmap for UAS 2010 2035 )Group1」であるとしている。
この分類区分の該当箇所をGoogle翻訳したのが下のとおりだ。
「U.S. Army Roadmap for UAS 2010-2035
https://irp.fas.org/program/collect/uas-army.pdf
UAS 2010-2035 の米国陸軍ロードマップ
グループ1
最大グロス離陸重量 < 20 ポンド(9.07㎏ 広辞苑3冊分) 通常の動作高度 (フィート) < 地上 1200 (AGL) 対気速度 <100ノット (185.2km毎時)稼働中の現用の陸軍UAS RQ-11B レイヴン
(陸上自衛隊で言えば連隊戦闘団レベル以下で使用するUAV(狭域用)JDXS-H1(スカイレンジャーR60)(187)、輸送学校が研究しているe-VTOL 型輸送用UAV、及び射撃訓練標的のRC-MAT(GKTO-D002)に相当)(184) ) 輸送→
グループ2
最大グロス離陸重量 21~55ポンド 通常の動作高度 (フィート) < 3500 AGL 対気速度 <250ノット 稼働中の現用の陸軍UAS 現在のシステムはありません。
( 陸上自衛隊で言えば師団・旅団レベルで使用するUAV(中域用)「スキャンイーグル」 )
グループ3
最大グロス離陸重量 < 1320 ポンド (598.7419㎏ 競走馬に2人乗った位)通常の動作高度 (フィート) <18,000 平均海面 (MSL) 対気速度 <250ノット 稼働中の現用の陸軍UAS RQ-7B シャドウ
(陸上自衛隊で言えば、方面隊レベルで使用する無人ヘリコプター(FFOS及びFFRS)のクラス(187)、輸送学校が研究しているマルチコプター型輸送用UAVがグループ2からこのレベルの下部、速度だけの比較なら嘗てのL-19やOH-6が相当 )
グループ4
最大グロス離陸重量 > 1320 ポンド
通常の動作高度 (フィート) <18,000 平均海面 (MSL) 対気速度 任意の対気速度 稼働中の現用の陸軍UAS MQ-5B、MQ-1C
グループ5
最大グロス離陸重量 > 1320 ポンド
通常の動作高度 (フィート) > 18,000 平均海面 (MSL)
対気速度 任意の対気速度
稼働中の現用の陸軍UAS 現在のシステムはありません
グループ1には以下のような説明がついている。
2.7.1.1 グループ 1
機能。グループ 1 UAS は通常、手動で起動します。
小型ユニットレベルで使用されるポータブルシステム。
ベースセキュリティ。彼らは「丘の上」または「角を曲がったところ」タイプの偵察、監視、およびターゲット獲得。ペイロードは、EO、IR、およびSAR。彼らは小さな物流フットプリントを持っています.
利点。グループ 1 の UAS は、軽量で持ち運びが可能で、タイムリーで正確な状況を提供する有機的な資産 大隊レベル以下での意識(SA)。
物流フットプリントは小さく、より少ないサイズの小型ユニットにサービスを提供します。ユニットの補給インフラへの負担。
制限 グループ 1 UAS は通常、一般に 1200 フィート未満の低高度でのオペレータのLOS 地上 (AGL) より上にあり、局所耐久性が限られています。
」
例示されている空撮用小型無人機(DJI製Phantom4pro相当)については、下のとおりの諸元となっている。グループ1に含まれるとみて良いだろう。
PHANTOM 4 PROスペック
https://www.dji.com/jp/phantom-4-pro
重量 (バッテリーとプロペラを含む) 1388g(週刊少年ジャンプ2冊分程度)
最大速度 72km/h (Sモード) 、58km/h (Aモード) 、 50km/h (Pモード)
運用限界高度 (海抜) 6,000m
トイドローン(重量200g以下)とあるのは、航空法(昭和27年法律第231号)の適用があるから、その辺りのものが使われる可能性が高いと考えたのだろう。200g(マンガ単行本1冊分)を超えるドローンには航空法が適用されている。因みに小型無人機等飛行禁止法(平成28年法律第9号)が、航空法対象外のものも含め全てのドローンに規制することとはなっている。なぜ仕様が未満となっていないのか分からないが、まあそのギリギリ付近のものを想定しているのだろう。もちろん「飛行機、回転翼航空機、滑空機、飛行船であって構造上人が乗ることができないもののうち、遠隔操作又は自動操縦により飛行させることができるもの」との条件がついている。「2022年6月20日からは総重量100g以上のドローンの機体登録が義務化される」という話もあるから、あまり航空法の200gという数値そのものには強い関りはないのだろう。因みに100gと言えば肉まん1個分だ。 航空→
この調達の仕様で用いるUAVは速度こそグループ2の範囲に及ぶ部分もあるが、規模としてはグループ1でも下の方のレベルに相当する。
撃破の対象とするのはあくまでもグループ1相当のUAVであるが、おそらく当調達で用いるUAVはこのレベルとするということだろうと考える。このレベルのUAVでも影響を与えないということだろうか。確かに単なる標的であるから目視できればよいということだろう。試験場も契約相手方が準備するとある。もし数百メートルの目視範囲を超える迎撃範囲を求めるなら、自衛隊の対空射撃場や演習場を提供するだろう。
トイドローンについては具体的な形態の仕様がないが、撮影用小型無人機について例示しているものはマルチコプター型だ。おそらくホバリングやNOE飛行(被発見を避ける山や谷あいの地表ギリギリの飛行)を想定しているに違いない。なぜなら固定翼UAVでよいなら自衛隊にはRC-MATを持っているからだ。標的となるUAVの準備をするのは契約相手方のようだが、自前のものがあるなら、その分の費用を出す必要はなかろう。あるいは照射結果も求めているから、UAVの破壊状態も見たいのかもしれない。熱による損傷・破壊という文言があるところからみても、実際に使われるであろう対象となるUAVがどのように破壊されるのかを試したいのかもしれない。
おそらく要撃の難易度はどちらも難しいと思う。対空火器と比べてリードアングル(弾着時において、移動後未来位置を予測して加えた方向)を取る必要がないにしても、RC-MATの動きもなかなか予想を覆す動きを突然する。むしろ回転翼機でなければ実施困難であるような空中の一点でホバリングしているときは弱点でもある。ただ何時動くかは相手次第だから予想が付き難い。特に電動であると内燃機よりレスポンスが速い。停止から移動へ移る遅れ時間が極めて小さいのである。その後の加速が大きいとは、空力や重量の問題があるから一概に言えないものの、小型のUAVに関して言うなら確かに加速は大きいだろうし、次々に加減速を繰り返すことができる。もちろん出力変動の度にエンジン音が増減するわけではないから対応を取り難い。
この調達の特徴として、あくまでも隊員に対する訓練であり、標的となるUAVや試験場のみならず、レーザー・システムも提供することとなっている。レーザー・システムに関する研究開発の実績を有することとなっていることや、無人機に係る設計及び国内における運用について十分な知見、実績を有することまでも契約相手方に求めている。システム→ 開発→
おそらく言及はされていないものの、航空自衛隊としても導入するレーザー・システム以外のもので試験や訓練をしてもあまり意味はないだろう。従ってその契約相手方が当該システムを別の調達で開発、納入することを前提としているのではないだろうか。
一応は、一般公開入札とするのではあろうが、隊員を、本調達で訓練している以上、他の業者が落札して異なるシステムを納入しても問題が生じてくるから、事実上、本調達の落札者が、システムの納入者となってしまう可能性があるのではないかと思うところだ。
以上が役務内容である。このような調達を行う背景には、近年のUAVの普及がある。軍事的には本当は古いのではあるが、注目されたのは2020年のナゴルノカラバフ紛争(経過参照)だった。この時、アルメニア軍に対しアゼルバイジャン軍が有効にUAVを用いて攻撃を行った。そして現在行われているウクライナ戦争においても、大規模に用いられている。
古いと書いたのは、有人機と同様に使われて来たからである。ただ多くは偵察用の他、射撃訓練の標的などと、ミサイルとして発展したものがある。 ミサイル→
大型の有人機を改造したものもあり、標的用に改造されたQB-17とか、中にはミサイルとして使われたものもある。第二次世界大戦のドイツでは重爆撃機に誘導用の戦闘機を載せて、攻撃目標に到達すると切り離して誘導するもの(ミステル)などがあった。
大型の偵察用UAVも着目されているところであるが、民間では比較的小型のドローンが普及している。従来は模型飛行機などとして捉えられてきたものだ。
産業界では、令和元年(2019年)4月に幕張メッセで行われた「第5回 国際ドローン展」を確認できる。第5回とあり、その後に第7回が2021年に実施されたことが確認できるので、最低一年に1回以上行われているようだ。この辺りの時期はコロナ禍の中にあったこともあり変則な間隔であった可能性も考えられるから、毎年春秋の2回が通常である可能性もあるが、検索したところ第1回は平成27年(2015年)に行われているようだ。
自衛隊でも、アメリカの9.11同時連続テロがあった後、テロ対策の施策が取られ、その想定に模型飛行機で爆発物が運ばれる想定があったことを記憶している。平成12~13年頃のことだ。
そのような背景の中、防衛省・自衛隊として、さまざまな検討が行われてきているが、その殆どがドローンの運用や規制に関するもので、ドローンを要撃することに関するものは少ない。
探したところ、以下の3つを確認することができた。
1 「米軍基地上空のドローンの飛行に対する脅威認識と対応について」(防衛研究所令和2年度特別研究成果報告書)
2「研究瓦版(2-45)小型無人航空機対処戦略」(2021年3月5日 航空自衛隊幹部学校航空研究センター)
3「航空宇宙技術動向が航空防衛に及ぼす影響に関する研究の成果について(報告)(25-R3(D))」(開発集団研第14号 28.6.30)
1は、表題の成果を取りまとめたものだ。米軍にとってはその脅威に対応することが課題となっていると現状を明らかにしている。米国においても小型UAS(UAVとほぼ同意だがFAA(米連邦航空局)での呼称でシステム体型を総称する場合に用いられる。)の飛行を禁止したり、制限したりする法律が設けられるようになったが、米国内の基地でも米軍基地周辺での不審なUASの目撃情報が少数ながら報告されているとのことである。対策としては、ほとんどが電波妨害を主としたものであるが、電波妨害では自律性の高い UASに対しては効果が薄く、また多数のUASには対応できない可能性が高いとしている。
米軍は2020年1月に、陸軍に対無人航空システム (JCO) を設置し、国防長官、各軍種統合軍やその他の関係部局のハブとなって、 対小型UAS 装備の技術開発が進められているとしている。
目次は、つぎのとおりである。
第1章 UASの種類とその脅威の形態
第2章 米軍基地や諸外国の軍事基地に対するUASの活用事例
第3章 米国におけるUASに対する政府内における議論の状況
第4章 米軍基地上空のUASの飛行への対応
本報告は特別研究となっている。防研の基盤的な活動として特別研究、基礎研究、及び所指定研究があり、特別研究は、防衛省内部部局などの政策立案部門からの要望に応じて実施し、日本の防衛・安全保障政策上のニーズに応えることを目的としたものだ。特別研究の研究成果は防衛省の政策策定に活用されるものとしている。因みに他の二つは、基礎研究と所指定研究であり、基礎研究は「研究者が各人の専門性と発意に基づき、比較的長期の視点から重要と思われる防衛・安全保障のテーマについて研究」するものであり、「基礎研究の中で特に日本の防衛政策に寄与できると認められたものは、所指定研究」となるとされている。
唯一無二の存在が、世界を動かす。 – 防衛研究所
http://www.nids.mod.go.jp/employment/pdf/2018/pamphlet.pdf
特別研究であるということは、防衛省本庁からの研究要請に基づく研究であったということになる。防衛省そのものが強い関心を示しているということだろう。
2は、米国防省の「C-UAS 戦略」を紹介したものだ。小型無人航空機システム (small-Unmanned Aircraft System(sUAS))による脅威に対処する小型無人航空機対処戦略 (Counter Small Unmanned Aircraft System Strategy(C-UAS 戦略))について論述している。ドローン要撃についてというよりもDOTMLPF-P(Doctrine,Organization,Training,Materiel,Leadership,Personnel,Facilities,Policy)全体にわたる総合的な検討をしたものである。
1も2も米国においての状況を紹介したものであり、防衛省は海外の事例の収集に努めていることがわかる。作成したのが防衛研究所や航空自衛隊幹部学校であることから、直接開発に関するものではなく、純粋な研究の一環のようだ。
3については、細部の内容は不明であるが、「5 成果の概要(3)無人機の捕獲方法に関する調査研究」という項目を確認できる。この研究は、航空自衛隊において行われた「兵器体系研究」に該当する調査、研究のようだ。空自の研究開発は、概念的には航空自衛隊の防衛力整備等計画に関する達(令和2年航空自衛隊達第31号)において防衛諸計画の作成等に関する訓令(平成27年防衛省訓令第32号)第3条第3項第2号の規定に基づく空幕長の定める細部区分として別表第2に、「防衛方策研究」、「兵器体系研究」 及び「人間科学研究」に区分されているようだ。 研究→ 幕長→
兵器体系研究とは、航空防衛力整備構想(目的とする将来の時点の水準を達成するための中長期的な航空防衛力の整備計画)に対応する兵器体系(中核となる装備品※、関連人員、器材、施設、技量等の総体)及び既存の兵器体系に関する研究開発のことである。本研究には段階が定められており構想段階、確定段階、装備化段階、運用段階で構成されている。
(※部隊等が、その特定任務、関連業務又は一般隊務遂行のため部隊等に装備し、又は個人に保有させる主品目(燃料、油脂、糧食、薬品等の消耗性物品及び非消耗性物品のうち長期の使用に耐えない事務用雑品を除く。)をいう。←原典 著者追記[初度部品を除き、各自衛隊による地方調達ではなく中央調達として調達されている。])
本報告を作成した航空開発実験集団の主たる任務は、兵器体系研究の構想段階における基礎的運用研究、装備化段階における実用試験等、運用段階における技術的追認等、並びに航空医学、心理学、人間工学等に関する研究開発を行うとともに防衛装備庁が実施する技術試験等に対する協力を行うとされている。 兵器→ 装備品→
つまり、この報告の内容は基礎的運用研究又は装備化段階における実用試験等として行われたものであるということになるが、捕獲方法に関して調査しているような状況であれば前者だろう。
それそれの作成時期については上の資料の3が平成28年(2016年)、1が令和2年(2020年)、2が令和3年(2021年)で、この4,5年の近年のものである。ドローンの急速な普及に対し、対処をしつつも、対策を絞り切れていないのだろうと思う。これは自衛隊のみならず、1の内容にあるように米軍ですら、まだ決め手となるものがないのではないだろうか。
ドローンに係わる事件・事故について、これらの時期に下の様なものがある。
日本では平成27年(2015年)4月22日に、首相官邸の屋上に放射性セシウムを搭載したドローンが落下する事件が話題となった。この事件は翌年、航空法を改正する原因となった。これを受けてだと思うが自衛隊においても管理施設の屋上を毎朝、当直が点検するようになったことを私自身覚えている。
同年1月にはホワイトハウスの前の公園に制御不能のドローンが墜落する事故が起きている。設置されていたレーダーで探知できなかったことを米国政府は問題視することとなった。
同年10月28日にはハリウッドでドローンが送電線に衝突し3時間に亘る停電が発生している。また、平成29年(2017年)には、カナダのケベック州で、旅客機との衝突事故が発生し、平成30年(2018年)8月4日には、ベネズエラで演説中のマドゥロ大統領を狙って爆発物を搭載したドローンが爆発する事件が発生し、国家指導者を狙った初のドローンによる攻撃とされている。
これらの事件事故が起きているところであるが、当然のことながら対策も行われている。例えば下のサイトにあるとおり警視庁のドローン対策として、網を吊り下げた大型ドローンで妨害するとか、地上からも網をネットランチャーで飛ばして捕獲したり、電波妨害装置で誘導を妨害するなどがドローンに対して行う他、ドローン関連業者に不審人物の通報を要請して予防に努めているようだ。
【図解・社会】警視庁のドローン対策(2019年11月)
https://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_soc_police20191108j-03-w450
撃墜すると言うより、妨害や捕獲を行うのは、ドローンの所有権の侵害に成らないようにせざるを得ないとか、証拠確保の為などの理由だろう。破壊するのは得策とは言えないからだ。
また電波妨害については、「ジャミングガン」と言われるようなものがあり、ドローンの操縦に使用されている電波に向けて、妨害電波を当てることで飛行できなくさせるものであるが、勿論、自律型のドローンには役立たないし、日本では電波法の規制があり総務省に許可が必要で使い難い面もある。
とは言え、今後、スウォーム攻撃(数十台のドローンを使う戦法)などが行われるようになれば、以上のような対策では不十分であることは明らかである。対策を突破されて事件が成就してしまうだろう。
その中で破壊手段としてレーザーが研究されているようである。そこで今度はレーザーの方を見てみたい。レーザーが出現したのは下のとおり昭和35年(1960年)である。ドローン程ではないが長い歴史がある。
レーザ – Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%82%B6%E3%83%BC
「1958年、C・H・タウンズとA・L・ショウロウによって理論的に実現の可能性が指摘され、1960年5月16日にT・H・メイマンがルビー結晶によるレーザー発振※を初めて実現した。」
※ 低エネルギー準位への遷移を利用した光発振
レーザー光線は殺人光線として映画などで出て来ることがあったが、私の知る作品では映画「007/ゴールドフィンガー」(昭和39年(1964年)作品)において捕えられたジェームズ・ボンドがレーザー光線で殺されそうになるシーンがあったのを覚えている。一般にもこの時代に既に知られていたということだ。
しかしまだこの時代には低出力のルビーレーザーしかなかったので殺人光線などは実現しておらず軍事用の測距などに使用されていたようである。強力なレーザーが出現するようになったのは炭酸ガスレーザーが開発されてからで、1,000W(大きめのハンドドライヤー程度の電力)を超える出力を持つものは昭和42年(1967年)に、英国の溶接研究所(TWI)で、ピーター・ハドクロフト(元英冶金学者協会会長)が厚さ1mmの鋼板切断に酸素アシストCO2レーザービームを使用したのが最初のようだ。
私自身が本物のレーザー装置を見たのは高校の実験室だった。昭和55年頃のことだったが1リットルのボトルが入るぐらいの箱のような装置で、出力するレーザー光線は現在のレーザーポインター程度のもので、電源も100Vの商用電源を使うものだったが、学校の2階の窓から下に居る歩行者の足元の路面に赤い光点を当てて悪戯したのを覚えている。
レーザーポインターの様なものが出始めたのは、どうやら1990年代の半ばに入ってからのようだ。平成9年(1997年)8月にプロ野球行われた大阪ドーム球場での試合中、ヤクルトスワローズの選手だった吉井理人投手の目の付近にレーザーが当てられたという事件が発生しているから、この頃のことだろう。すぐさまマウンドを下りバックネット裏を指して抗議したというし、その後も選手として活躍しているから大した影響はなかったようだ。同じ1997年に中学生がレーザーポインターで遊んでいたところ、網戸を通して別の室内にいた50歳代の女性の目に当たり視力が低下という事故も起きているようだ。このような小型なものが出現したことには半導体レーザーの出現が貢献している。この頃になると下のような製品が出てくるようになる。
三洋電機、世界初の2層記録向け青紫色半導体レーザー 2003年3月26日
https://av.watch.impress.co.jp/docs/20030326/sanyo.htm
「三洋電機株式会社は26日、世界最高出力100mW(パルス)を実現した次世代光ディスク用青紫色半導体レーザーを開発したと発表」
ペン型・緑色レーザーポインターで初――コクヨS&Tが照射形状を3パターン選べる新製品 2008年03月04日 17時19分 公開
https://www.itmedia.co.jp/bizid/articles/0803/04/news085.html
100mWなら2畳のホットカーペットの消費電力程度だろうか。
「コクヨS&Tは3月10日、3パターンの照射形状を切り替える機能を装備した「レーザーポインター<GREEN>(ペンタイプ)」を発売する。販売予定価格は3万6750円。」
2010年代になると、以下のように有人機に対してレーザー光線で妨害が行われる事件が増えてくる。
飛行中の航空機に対するレーザー照射問題 日乗連ニュースDate 2011.1.11 No. 34 – 46
https://alpajapan.org/cms_202010/wp-content/uploads/ALPA-Japan-news-34-46.pdf
「米国では、90年代から04年末までには43件であったものが、240件/05年、600件/07年、947件 / 08年、1489 件/ 09年」
航空機レーザー照射事件 陸自幹部「1分間は視力低下する」と危惧 (2/3ページ)
2015.12.8 12:37
https://www.sankeibiz.jp/compliance/news/151208/cpb1512081237003-n2.htm
「関西上空で今年10月、飛行中の大阪(伊丹)空港行き全日空機など複数便に緑色のレーザー光が照射された事件では、レーザー光が当てられた場所が地上300メートル上空だったため、ランク3以上の高出力製品が使用された可能性」
日本でも平成22年 2件 平成23年 11件 平成24年 36件 平成25年 37件 平成26年 28件 平成27年 38件と件数が増えている。
ただ航空機がレーザー光線により撃墜されるような事態は、この時点では、まだ起きていないようだ。なお、1982年のフォークランド・マルビナス紛争でアルゼンチン空軍機3機が原因不明で墜落した原因として、英国海軍の軍艦からのレーザー照射の可能性が指摘されているそうだ。これは機体の破壊ではなく幻惑などが原因なのだろう。
レーザー光線の出力と一概に言っても目的によって大きく違うが、一応、程度を示しておく。
経済産業省はレーザーポインターに対する規制を2001年に始め、消費生活用製品安全法において、特別特定製品と分類した製品群にはPSCマークを付けなければならないとされた。これによりレーザーポインターに使われるレーザーでは次のように定められている。
ウィキペディア レーザーポインター
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%82%B6%E3%83%BC%E3%83%9D%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC
「クラス1
概ね0.2mW(単位:ミリワット)前後の出力。100秒間瞬きせずに直視しても問題無いとされる。光線の波長によって出力制限が異なる。後述のPSCマーク認定レーザーポインター、主に玩具用。
著者追加[0.72Wh、テレビジョン受像機の待機電力に相当、または単三乾電池1本]
クラス2
1mW未満の出力。0.25秒間未満の直視は問題無いとされる。PSCマーク認定レーザーポインター、主にプレゼンテーション用。
2001年以降これより上の出力を持つレーザーポインター(正確には電池駆動の携帯用レーザー応用装置)の製造販売、及び輸入販売は法律で禁止されている。
著者追加[3.6Wh、モデムや給湯機の待機電力に相当]
クラス3A
法規制以前に販売されていたレーザーポインターやレーザーマーカーなど。直視してしまっても瞬きなどで回避できる場合がある。望遠鏡などで直視した場合は目に致命的な損傷を与える。
クラス3B
500mW以下の出力。光学ドライブのレーザーがこれにあたる。光線の直視はいかなる場合でも避けなければいけない。
著者追加[1.8kWh、98℃保温の電気ポットから乾燥ドラム式洗濯機の稼働電力に相当]
クラス4
クラス3Bを越える出力。直視だけではなく、拡散反射でも目に悪影響を与え、やけどなどの皮膚障害を起こす。温度上昇により照射部分が発火することもある。レーザーショー向け。」
地表での太陽光の明るさは、1mm角あたりで0.7mWであるそうだから、これより明るくないとレーザーポインターとしては実用に成り難い。クラス2レベルでなければ実用には成り難いだろう。法律で販売を認められたのも、このような事情からと思われる。因みに市販のものでも夜間であれば80㎞先からでも見えるそうである。
市販のレーザーポインターの光、富士山からどこまで届く? メガスター開発者が実験 80キロ先からでも見えました。
https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1311/22/news144.html
なお、特定通常兵器使用禁止制限条約「失明をもたらすレーザー兵器に関する議定書(議定書Ⅳ)」(下のサイト参照)には「視力の強化されていない眼(裸眼又は視力矯正装置をつけたものをいう。)に永久に失明[約60 m(200フィート)まで通常の視力で見えるものが6m(20フィート)でも見えない状態をさす。]をもたらすように特に設計されたレーザー兵器を使用することは、禁止する。」 [ ]は筆者説明追加部分 とされている。
産大法学 38巻2号(2004. 9)盲目化レーザー兵器議定書に対する国際法的評価 岩本誠吾
https://core.ac.uk/download/pdf/230763291.pdf
これがどの程度の出力に対応するのかは非常に難しい問題である。単に出力だけではなく波長とか暴露時間に左右されるからだ。おそらくクラス3Bに対応するのだろうか。炭酸ガスレーザーでは角膜に、YAGレーザーでは網膜に障害が集中するようである。
眼科医に聞いた話だと加齢黄斑変性症の治療で網膜を焼き付け固定するのにレーザーを使うらしいが、その個所の視力は失われると言っていた。現在ではYAGレーザーが多いようだが、かつてはアルゴンやクリプトンのガスレーザーだったようで、波長500~600nmの橙色辺りのもののようだ。血液中のヘモグロビンの吸収に関係してのことのようだ。200mW程度のもののようだからクラス3Bぐらいになるのだろうか。中には500mWに達するものもあるようだが極めて短いパルスでの照射のようだ。
工業用加工機に使われるレーザーであると、波長はYAGやファイバーレーザーでは1000nm程度(細菌レベル)だから近赤外線であり、炭酸ガスレーザーでは1万nm程度で遠赤外線で、両者とも目には見えず、出力は1wから50kw(1時間なら3.6kWh~180MWh)と幅が広い。当然のことながらクラス3Bの倍を超えるものだ。
レーザーポインターで果たして人は死ぬのかという思考検討もある。まあ理論的には可能であるようだが、想定自体が非現実的なもので、要するに現実的には不可能ということのようである。
【職場閲覧注意】レーザーポインターで人は死ぬ? いくつあれば? 2015.10.25 09:00
https://www.gizmodo.jp/2015/10/post_18561.html
「レーザーポインターを20万個、車くらいの大きさの球体に並べて、動かない人の脳幹めがけて正確に撃ちこみ、ある程度の時間をかければ、その人は死ぬ」
クラス2の20万倍だから40~200wだ。200Vの電圧だと動力用などに使われる電圧だが、その場合なら1アンペアになる。1アンペアの電流といえば命に係わる電流だ。白熱電灯なら100wでもかなり明るいし、電球そのものも熱くなる。白熱光でこれだからレーザーならやはり危険に違いない。因みに電車1両が1秒間走ると以外に小さく550w程度のようだ。
一応、物理的な効果の目安は下のようになっているらしい。これらはクラス1から3Bに当たる。
15mW – 夜、LASER のビームが見える。(コーヒーメーカーの抽出時の電力)
35mW – 昼間でも、ビームが見える。(450L冷蔵庫の電力)
55mW – 黒いプラスチックに穴をあけることが可能(炊飯ジャー3合炊飯中の電力)
75mW – 黒など暗い色の風船を割ることが可能(ホームベーカリーの電力)
95mW – マッチに点火、磁気テープを切断可能(食器洗い乾燥機の電力)
125mW – ゴムやある種のプラスチックを溶かすことが可能(2畳電気カーペットや保温便座の保温電力)
いずれも工業加工用より小さな出力である。おそらくこれらは近距離での値だろう。照射時間などについての記載もないから、照射し続ければということか。熱には出入りの両方があるから、時間を掛ければ、これらの効果を得られる平衡値の熱量になるということなのだろう。小さなエネルギーではどんどん冷えてしまう。レーザー光はコヒーレントと言って移送が揃っているので回折が少なくビーム幅を絞ったまま遠方に届くが、それでも距離の二乗に反比例するし、光の拡散もあるので、遠方になればやはり熱量は小さくなる。むしろ装置の出力というよりは照射される目標においての入力値と考えた方が良さそうだ。
出力の大きなものとしては、下のようなものがある。
米研究所がレーザー核融合の“点火”成功で実用現実味、阪大の技術で加速も
野澤 哲生 日経クロステック/日経エレクトロニクス 2022.12.19
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/07516/
「レーザーパルスのピーク出力は、500T(テラ)Wと非常に高いが、継続時間が約4n秒」
MKS単位系だから1秒に均せば125Wだ。
またかつて米軍はABL(Airborne Laser、空中発射レーザー)兵器システムを搭載したYAL-1(ボーイング747-400F改造)を開発した。メガワット級の酸素-ヨウ素化学レーザであったようだ。300~600㎞の距離からブースト段階の弾道ミサイルを3~5秒間連続的に照射して破壊するという構想だったようである。 ミサイル→
ウィキペディア AL-1 (航空機)
https://ja.wikipedia.org/wiki/AL-1_(%E8%88%AA%E7%A9%BA%E6%A9%9F)
余りにも大きすぎて数字だけでは分からないが、理化学研究所のスーパーコンピュータ「富岳」が全力で計算すると8.3MW(29.88GWh)となる。JAMSTECの「地球シミュレーター」が2MW(7.5GWh)だ。日本製鋼所の120t電気炉が1tのスクラップを溶解するのに83kWだぞうだ。120tフルに溶解すると10MW(36GWh))になる。
なお冷却用クーリングタワーからみたこれらの設備の電力の推定について(201)で取り上げている。
ここから実際にドローン対処用として使われた例を見てみることにする。
米海軍がレーザーでドローンを撃墜する瞬間の映像が公開される(アメリカ)
2020年05月30日
https://karapaia.com/archives/52291316.htmlW
「ドック輸送揚陸艦「ポートランド(USS Portland, LPD-27)」に搭載された固体レーザー兵器「LWSD(Technology Maturation Laser Weapon System Demonstrator)」によって行われた。
出力は150kWで、米海軍によると、このクラスの高エネルギー固体レーザーが使用された」
動画があるが、照射開始が2秒のところで、映像がドローンに変わるのが6秒、10秒まで照射が続けられドローンが右旋回を始めている。開始から照射が継続されていれば10秒間照射されていたことになる。
150kWだから工業加工用の最大のものの3倍程度のものということになる。電気炉との比較で言えば3tのスクラップを溶融するレベルだ。当然だろうがクラス4を超えて、網膜どころか人体そのものに危険であるレベルであることは間違いない。先に述べた通り200Wで人間は死亡するのだから一溜りもない。 兵器→
しかし映像にあるように撃墜に至るまで10秒間の照射が必要となると、音速のミサイルなら3㎞も前進してしまう。おそらく対艦ミサイルなどに対して150kWでは不十分だろう。映像がはっきりしないが直線翼だから、おそらくプロペラ式のドローンだろうが、これでは偵察用のドローンなどの迎撃しかできない。しかも搭載しているのはドック輸送揚陸艦である。駆逐艦などでは搭載が困難なのかもしれない。150kWの電力を供給しようとすると、大型トラック一台分ぐらいのパワープラントが必要だ。
同じく米海軍のものだが、こちらには出力などのデータがない。
米海軍、レーザー兵器によるドローンの撃墜実験に成功
https://engineer.fabcross.jp/archeive/220524_layered-laser-defense.html
「米海軍は2022年2月、全電気式の高エネルギーレーザー兵器を、ニューメキシコ州のホワイトサンズ・ミサイル発射場でテスト
亜音速巡航ミサイルの代用として高速飛行型のドローンを使用し、撃墜に成功
高解像度の望遠鏡と人工知能を搭載して、飛来する脅威となる飛行物体を追跡し、戦闘の対象
海軍研究所(ONR)は1980年代からレーザー兵器をテストしてきたが、化学的な原理で実現していたため、可搬性の悪さが実戦投入への障壁を識別する。さらに、交戦中のターゲットの損害を評価する」
画像は静止画だが、目標はジェットエンジンの標的機のようだ。10秒も撃破に時間を要していては被弾してしまうから、出力はもっと大きいに違いない。ホワイトサンズといえば砂漠だから、艦船に搭載できるような規模のものではないのかもしれない。
米陸軍も研究開発を進めているようだ。
ドローンを空中で撃墜する米陸軍の新型レーザー兵器 2021-10-12
https://engineer.fabcross.jp/archeive/211012_laser-weapon.html
「2022会計年度にこれを装備した「Stryker」装甲車のプロトタイプの配備に向けて作業を進めている
指向性エネルギー機動短距離防空システム(DE M-SHORAD)
レーザーを駆動する電力は、Strykerのガスエンジンから供給
出力50kWクラスの高出力レーザー
ドローンなどの無人航空機、ロケット弾、砲弾、迫撃砲弾に対して壊滅的破壊力(lethality)を有する。」
先の海軍の実験のものの三分の一の出力だ。50kWなら先ほどの電気炉1t溶融時よりはやや小さい程度だ。小型の偵察ドローンならまだしも砲弾に対しては有効だろうか。砲弾は速度も速いが、砲撃の際の加速に耐える弾殻を有し、しかも誘導されて飛行しているわけではないから、そのまま弾道を描いて着弾する。瞬間的に破壊できなければ有効な兵器とは言えないだろう。
ストライカー装甲車の車体に収めるには50kW程度が限界なのだろうか。その他の国々でも下の様に研究が行われているようだ。
ロシア軍もすでに使用か?レーザー兵器が“ゲームチェンジャー”になれる理由2022.06.14
https://www.mag2.com/p/news/542217/2
「イスラエル現地メディアは「昨年6月、航空機搭載型レーザーで高度3,000フィート(約914メートル)上空から1キロ離れたドローンを撃墜
数キロ離れたところで低く飛行するドローンの翼を破壊し墜落させることに成功
イスラエル国防省は「来年上半期には約20km距離の目標物も撃墜できる水準になるだろう」
ロシアのボリソフ副総理は先月18日、「ロシア軍特殊部隊が(ウクライナで)ペレスベットを利用して敵の監視衛星とドローンなどを攻撃している」と主張」
詳しいことは分からないが、航空機搭載となれば重量、容積ともに限定される筈だから、プラットフォームは上に挙げたAL-1 のような大型機だろうか。むしろロシアの話は、衛星に対するもので宇宙でなら大気もないし、衛星は軌道に沿って周回するので容易だろう。
そこで日本はどうかというと下のような記事がある。
防衛装備庁が対ドローン用レーザー兵器を開発する狙い 2021年12月16日
https://newswitch.jp/p/30037
「車両搭載型の高出力レーザー兵器を2023年度までに開発
研究中の出力100キロワットのレーザーと別に10キロワットの小型レーザーを製作、陸上自衛隊の実車両に取り付けて実証実験を始めた。」
米陸軍のストライカー装甲車に50kWの装置を搭載できるのなら10kWなら十分に可能だ。ただし150kWでも瞬時に破壊することは困難なようだから、低速で上空を滞空するようなドローンが対象なのだろう。
本調達の担当は事業計画第1課だった。レーザーのような高エネルギー指向兵器などの次世代装備は本来、事業計画第2課の方が相応しいように思う。それを考えると防衛装備庁を主体とした、この開発と関連するのかは疑問だ。
むしろ本流の装備品開発というよりも、今まで見たように近年の小型ドローンによる警備上の問題から、対応に迫られ本調達が上がったような気がする。だからそこ対象としているドローンもグループ1とかトイドローンなのだろう。
そのような小型ドローンであれば、10kWもあれば10秒も照射時間を必要としないかもしれない。ハードキルならまだしも、カメラなどを妨害するようなソフトキルならクラス3A程度のものでも十分だ。
ただし仕様書には撃破に至る追随のトレーニングとあるし、熱的影響というような文言も見られるからある程度のハードキルまでを射程に置いているのだろう。
戦場で戦闘として使うならまだしも、平時に警備に使うということであるなら10kWものレーザー光線を照射するのは余りにも影響がありすぎる。おそらく有事でなければ航空機などに危険を及ぼすので使えないだろう。長時間上空にドローンに滞空されるのが邪魔なわけであるから、直ぐにどこかに飛び去ってくれれば良いという程度なら、ソフトキルに少々プラスαぐらいのもので十分だろうし、装置の規模からしても大型のものでは使い回しが悪い。おそらくクラス4を少々超えて1kW程度のものなのではないだろうか。つまり3.6MWhである。通常1時間も連続照射するようなことは考えられられないが、「6MWhの電力量でモデルSを30,000km走行させることができます。」という記事もあるから、2万キロ弱走行可能なわけで相当な電力には違いない。この記事では「200V 80A=16kWで充電するとさすがに約5時間で空から満タンまで充電」とある。装置の規模もそんな感じだろうか。
もちろん将来的にミサイルを瞬時に破壊するようなものも必要だろうが、ドローンが多用されるようになれば、どこでも使える小型のものも必要になる筈だ。平時の警備ではなく戦時の場合においても実際に歩兵が人力で持ち運べる装備が必要だ。確実に撃破出来なくても無いよりはマシであるし、巨大な装置で現場に持ち運べないのなら役に立たない。ドローンの目つぶしが出来ればドローンは偵察活動を継続することは出来なくなる。そういった用途に使えるコンパクトなものをこの調達では求めているのではないだろうか。
ドローンが近年重視されていることは敢えて述べるまでもないが、なぜ重視されているのだろうか。様々な理由が述べられているが、おそらく一番多い答えは人的な危険が少ないというものだ。それは間違いないが、それだけでここまで注目されるだろうか。私の考えだが、従来より空中の利用を密にしたことだろうと考えている。人的危険と関連するが対空砲火が存在する空域とか、安全マージンを無視したような地形地物の間などにも進入して行くことが出来るし、支援設備を持たない小部隊でも最前線で利用でき、更には人間が耐えがたい退屈な長時間滞空も可能になる。有人機より高い密度で隅々まで空を利用できることが、ドローンの利点なのではないだろうか。
ドローンの普及により、戦場の情報が従来より得易くなった事が着目されるようになった大きな原因だと思う。「およそ人間の諸活動のうちで、戦争ほど不断かつ一般的に偶然性と関連している活動はない。」(1編1章)と「戦争論」でクラウゼヴィッツは記述しているのであるが、偶然を必然に大きく変えてしまう力をドローンは持っているのではないだろうか。だとすればドローンを妨害する装備も、ドローンの密度に競争して多数必要になる筈である。
上記QRコードのURL
https://ofuse.me/sucanku
軍事問題研究会関連資料の紹介 関連資料として以下を所蔵しておりますので応談承ります。なお在庫切れの場合はご容赦下さい。お問合せはこちらへ。
なお、「破壊」に関する資料についてはこちら、「無人機」「UAV」「ドローン」及び「無人航空機」に関する資料についてはこちらです。
(資料番号:19.8.5-2)「『北朝鮮、平安北道の正体不明の建築物は韓国の鶏竜台に類似、訓練用の標的である可能性』米国の衛星写真分析専門家」『基礎情報隊資料』2018年11月配信記事
(資料番号:18.11.28-2)「マルチドメインによる海域の防衛」(海上自衛隊幹部学校戦略研究グループ コラム125 2018/11/01)島嶼防衛(侵攻兵力の撃破)のみならず海域の防衛のための作戦についても、陸自の地対艦ミサイルが海・空自とともに役割を担うことが可能に
(資料番号:18.7.23-1)「主要国で開発が進む高出力レーザー兵器―米国で進展中の主要プロジェクトとわが国の取り組み―」『鵬友』2018年3月号掲載
(資料番号:17.8.8-3)「オバマ政権とテロとの戦争―『国家機密特権』と『標的殺害』を中心に」『国際安全保障』第45巻第1号(2017年6月30日)掲載 テロ→
(資料番号:17.5.25-3)「航空機に対するレーザー光照射等の禁止に関する航空法施行規則等の改正」『法務トピック』第28号(28.11.18 空幕首席法務官)
(資料番号:17.5.25-3)「航空機に対するレーザー光照射等の禁止に関する航空法施行規則等の改正」『法務トピック』第28号(28.11.18 空幕首席法務官)
(資料番号:15.3.26-1)「領域警備等について」(防衛研究所平成25年度特別研究成果報告書)中国軍艦による事態が起こった際に、その国際法上の評価と国際法上認められる対抗措置を検討した部内研究報告書 射撃レーダー照射等の行為が敵対意図の明示と認められれば武力行使
□ニュースの背景:自衛隊も民間機にレーダー照射をしていた―田母神 発言の正誤を解説する
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